ハリネズミ | ナノ
(落ちない)
(ネタお借りしました)

閉じ込められた、が、正しいんだと思う。
わたしと素良は、もう随分と長い間、とても大きく広いお部屋で暮らしている。ここはとっても暖かくて、安心できる、とっても優しい場所だ。わたしは此処が、確かに好き。
沢山のおもちゃにぬいぐるみ、ゲームもお菓子も山のよう。ご飯だって、毎日決まった時間に食べられる。此処はとっても、不思議なお部屋だ。
けど、それに違和感を覚えたのはいつだろう。わたしは時々、そう思って、首をかしげる。
思い出せない事があるんだ。ほんの時々、ほんの少し、日常の些細な出来事が、欠落している。それに気付いた時が、わたしは、何よりも嫌いで、なによりも怖くなる。
昨日の朝ご飯はなんだっけ。あの時やったゲームは、どんな内容だったかな。わたし達、どうして此処にいるの?
食事の時間にだけ開く、外と此処を繋ぐ扉。あの扉の向こうには、一体、何が存在する? わたしの見た事のない景色があるの?それともまた、思い出せないだけ?
わたしは時々忘れてしまう。記憶を時々、失ってしまう。その原因が何なのか、わたしはよく分からない。けれど忘れるたび、わたしはやっぱり怖くなる。この部屋から、逃げ出したくて仕方がなくなる。素良を置いてまでして、その衝動に駆られるわたしは一体、何なんだろう。一体何を忘れて、何を覚えているのかな。

「ねえ、素良、わたし」
あの扉の向こうが、しりたい。

そう呟いた時の、素良の顔は、酷く怖くって。
もしこの出来事を忘れる事があったのなら、それは、素良の顔より怖いものを、見た時なんじゃないのかな。感じた時、なんじゃないのかな。そう思ってわたしは、また、目を閉じる。
……あれ、またなんておかしいな。わたし、外が気になるなんて、初めて言ったはずなのに。
けどわたしは、この後起きる出来事を、知っている。怖い顔をした後、素良は決まって。
「…菟雨が知る必要、ないでしょ」
吐き出すように呟いて、わたしの頬を、思いっきり叩くんだ。

素良は、外の事、何か知ってるのかな。もしそうだとしたら、知りたいなあ。けどそんな事言ったら、素良はまた、わたしのほっぺを、ぱしんって叩くんだ。わたし、痛いのは嫌だから、我儘は、言わないよ。
何も言わなければ、素良はとっても優しいの。わたしにいっぱい笑って、いっぱいぎゅってして、いっぱいいっぱい、幸せをくれる。あったかいをくれる。安心をくれる。だからわたしは、素良が、だいすき。

「菟雨にはね、僕がいればいいんだよ」
「……そらがいれば」
「そうだよ。僕たちはね、ずっとずっと、此処で一緒にいればいいの。そうすれば、ずっとずっと、しあわせだから」
「しあわ、せ」


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