(飽きた)
ピオニー・パープルのその目の中に、赤色が写り込む瞬間が何よりも好きだった。貴方の目を綺麗だとただ感じた。だからわたしは、いつだって彼の目を見続けている。どんなに痛い思いをしても、貴方の目に、わたしの汚れだ赤が映る。そんな些細な瞬間が、わたしは、何よりも尊く美しく感じるの。
痛い思いはしたくない。けど、ユーリの目に映る赤が見えなくなってしまうのは、とても悲しいこと。
だからわたしはただ耐えるの。その目が最も美しくなる瞬間を、本当の価値が垣間見える瞬間を、ただ一瞬でもこの目に焼き付けるために。
大嫌いな、素良と同じこの目が、貴方と同じ色をするような――ただ一瞬の錯覚を、感じる為に。
「だから、僕に殴られたいんだ」
「…それは少し…語弊があると、思う」
「けど、事実だよね」
「……否定は…しない、けど…」
「じゃあ、解決だ」
笑みを浮かべてそう告げるユーリの姿は、酷く晴れ晴れしているような気がして、少しだけ眩暈がした。悪いわけではないけれど、これはこれで、どうなんだろう。いや、自分から嫌な思いをしに来ているわたしも、大概なのだけれど。
汚れてもいい場所、という理由で連れてこられたアカデミアの古びた地下牢。もう使用される事はないにも関わらず、埃や黴一つないこの場所は、わたし達が人に言えないような行為を行うのに、丁度良すぎた。
まるで刑期を待つ囚人のように足枷を掛けられたわたしは、ぼんやりとしたまま、牢の外で準備をするユーリを眺めている。大きな刃物や、本の中でしか見た事のない処刑道具。そんなので刺されたら、本当に死んでしまうんじゃないかと思う程の、道具の数々。
ユーリがわたしを殺さないのは、分かっている。彼にとっても、わたしは都合の良い存在だ。所詮は、穴埋めの道具でしかない。
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