ハリネズミ | ナノ
わたしのお兄ちゃんの愛情表現は非常に特殊である。
ぱちりと瞬きをしながらわたしはそう思った。だってこれが普通だったら世の中崩壊してるもの。
いっぱいの痛い痕を隠すように長袖のお洋服を着た。長いスカートを穿いた。素良はそれが満足だったようで、それからの愛情表現はだいぶ大人しくなった。けどやっぱり肌を出すといっぱい痕をつけられる。痛くはない、もう慣れたから。
素良とわたしは双子の兄妹。ずっと昔から、ずっとずっと隣にいる。素良は甘いものが大好き。わたしは甘いものが大嫌い。
そんな正反対の兄妹なのに、多分わたしは素良に対してだめなものを抱いてる。きっと素良もおんなじものを抱いてる。
ふと思って足元をみつめる。暗い色のタイツの下にはいっぱい痕がついてる。火傷だとかとか、叩かれたものだとか、切られたものだとかいろいろな種類。嫌じゃないよ、寧ろそんなにレパートリーがあるのかってびっくりするくらいだもの。
足を動かすとちょっと痛い。けど一緒に居ないと素良が不機嫌になるから一人にはならない。だって不機嫌な素良は怖いから。
うーん、と少し考えて前を見る。現在地は遊勝塾、ソリッドビジョンシステムによって作られたフィールドの中で素良と遊矢くんがデュエルを行っている真っ最中だ。
素良の好きそうな甘い甘いお菓子のフィールド。見てるだけで胸焼けがしそう。
楽しそうにデュエルする素良に何となく怒りが込み上げた。わたしとはデュエルしてくれないのに、なんだかずるい。
そう思って小さく唇を噛む。また痕が残っちゃう、こんなのやったら素良にもっと噛まれるのに。
……あ、素良負けちゃった。

「素良負けちゃったね」
「なにさあ、菟雨ならまずエースモンスター出す前にやられちゃうくせに」
「それはそうだけど……」

けど遊矢くん面白かったね。そう言えばなんとなく頷く素良に安心した。よかった、機嫌は悪くないみたい。
そのまま話を続ける。それくらい見ててわくわくしたデュエルだ、アクションデュエルって見てるだけでも凄く楽しい。

「オッドアイズもかっこよかったし…」
「菟雨はオッドアイズみたいなのが好きなんだー、ふーん」
「あ、えっと、けどそれよりもシザーベアの方が可愛くて好きだよ、だから…」
「別に無理して機嫌とらなくてもいいけど」
「そんなんじゃないよ、一番好きなのは素良だって…」
「ならいいけど。菟雨はおばかさんなんだからもお」

すごい、びっくりするほど目が笑ってないよ。こっそりと冷や汗をかいた。少しだけ立った鳥肌がとっても怖い。
現在地は河川敷のすぐ近く、オレンジ色になった道がとっても不思議。
ふと横を見ればオレンジ色の夕陽がとっても綺麗で、なんとなく立ち止まって遠くを見てみた。
立ち止まったわたしに気付いた素良もすぐ隣で立ち止まる。綺麗だとかそういう言葉はないけど、もしかしたら同じことを思ってくれてるのかもしれない。
目に染みるオレンジ色は純粋に綺麗だ。素良の髪みたいな水色の空も好きだけど、こうして見る太陽は凄くいいと思う。
同意を求めようと隣を見れば、じいっとわたしを見つめる素良と目が合う。どうしたの、って聞こうとしたら何故かお腹を殴られた。慣れたけど、やっぱり痛い。

「……素良?」
「僕以外のもの好きになっちゃダメって言ったじゃん」
「好きじゃないよ、綺麗だって思っただけだよ」
「それもだめ、菟雨はボクだけみててよね」
「素良しかみてないよ」
「嘘つき、昼間だって遊矢のこと見てたしデュエル中は柚子と話してた。柚子と話す前はゴンちゃんに質問してたしそもそも今日はボクが見てる時でも遊矢と話してた」
「話しただけだよ、だめ?」
「ダメって言ってるじゃん、菟雨って本当ばかだよねえ」
「……素良しかみてないよ」
「それって物理的な意味で?ボクしか見てないって本当?じゃあボクがいない時はちゃんと目を瞑ってなきゃだめじゃん、なんで菟雨は夕陽なんか見てるのさ」
「……素良しか好きじゃないよ」
「うそつき」

そう言って先に進んじゃう素良は嫌い。
素良は時々あんな風に我儘を言う。我儘自体は嫌じゃないけど、その時の素良の表情が凄く悲しそうで痛そうでわたしはその顔が大嫌いだった。
急いで後を追って後ろを歩くけど、素良は一回も振り向いてくれない。少しだけ下を向いて河川敷の道を進んでく。
さみしい、素良がこっちを見てくれないと寂しい。素良につけられた傷が凄くむずむずする。
素良がこっち見てくれないとつらいの、悲しいの、寂しいの、嫌なの。わたし我儘でもいい、怒られても嫌われてもいいからわたしのことを見てほしい。
素良、ねえ素良、こっちみて、振り向いて、ねえ。

「――なーんて、びっくりしたあ?」
「……そら、あ」
「菟雨は馬鹿なんだからこれぐらいしなきゃねー、ほら泣いていいよ?嬉しいんでしょ?」
「素良、ああそら、よかった、そらに嫌われちゃったと思って」
「おばかなんだからー、ほら行こ。特別に手つないであげる」
「うん……」

満面の笑みでわたしの手を握る素良は大好き。
意地悪で手を強く握られたり、手首をぎゅってされて血が止められちゃったりするけどそんなの気にならないくらい大好き。
素良の意地悪は気まぐれだ。けどそれが愛情表現だって分かってるからその意地悪もわたしは大好き。
素良は全部分かってる。わたしが嫌なことも好きなことも、悲しいことも嬉しいことも全部全部。
わたしは素良が好き。きっと素良もわたしのことが好き。
わたしが抱く好きは家族愛じゃない、けど素良が抱くそれが家族愛じゃないとは言い切れない。
わたしだけが異常の可能性は知ってる。多分、ほんとのことを言ったら素良に嫌われるから。
わたし、素良のこと大好き。多分それを言ったらまた意地悪される。


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