吸い込まれそうな黒色の瞳。意志の強そうな目付き。羨ましいと思った、綺麗だと思った。そればかりのわたしは、欲しがりなんだと思う。
黒咲さんによって此処へ連れられたわたしは、初めて彼を見た時"似ているなあ"という感想だけを抱いた。
それが誰になのかは、わたしにも分からない。
ただ抱いた短い感情に、申し訳なさと吐き気が募る。此処にあの人は居ないのに、少しだけの紫がこんなにわたしを不安にさせて。
「――菟雨?」
その声に、ハッとして顔を上げた。
周囲を見渡しても、あの部屋の面影は一切ない。ここはアカデミアじゃない、それは、理解しているのだけれど。
――ここは、レジスタンスの仮拠点。その一室で、わたしは、日々を過ごしている。
「疲れているのか?集中できていないようにも見えるが」
「あ、ええと…そういう訳では、ないです…ごめんなさい……」
ユートさんを見る度思い出す、あの紫色。
重ねてみている事への恐怖、集中出来ていない事への罪悪感、それから、この場にいても良いのかという不安感が、一斉にわたしへと襲いかかる。
「……」
俯き口を噤むわたしに、彼は心配そうな声を上げる。いつだってそう、わたしは彼らに、迷惑掛けてばかりで。
今だってそう。こうして彼らの力になろうと、エクシーズを習う為時間を作ってもらっているのに…わたしは、何をしているんだろう。
「無理はするな」
「そんな、しているつもりは…」
「また隼が心配する」
「けど、わたしはもっと…もっと頑張らなきゃ……」
「君が倒れて心配する者は、君が考えるよりも沢山居る」
わたしの手にあるカード達を奪い、空いた手をわたしの頭にそっと乗せる。拙いけれど、多分、頭を撫でているつもりなんだろう。
髪の毛はぐしゃぐしゃになり、力を入れすぎて頭はがくがくと揺れてしまう。
――けれど、とても暖かくて、優しくて。
「…泣いているのか」
「え…?」
驚きで顔を上げた瞬間、わたしの瞳からぽたりと涙が零れおちた。
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