素良はわたしの、双子のお兄さん。
同じ色の髪、同じ色の目、同じ色の肌。全部が同じ、だからわたし達は一緒にいる。双子は一緒にいるのが普通なんだって、素良は繰り返す。だからきっと、それが正しい。
わたしは素良が一人の人として好き。けど、それは表に出したりしない。双子は家族だもの、家族以外の愛し方は、間違ってる。
同じベッドで寝て、一緒にお勉強をして、一緒にご飯を食べて、一緒のお風呂に入って、お揃いの制服を着て、一緒に、一緒の、全部一緒。素良とわたしは、同じ存在。時々、そう思い込む。
そう思っていれば、狩りだって、怖くないから。
素良は優等生。だからわたしも優等生でなくちゃいけない。一番を目指さなくちゃいけない。
だからお勉強は好き。素良と一緒にするお勉強が一番好き。お勉強している時の素良は、とっても優しいから。
召喚の仕方、魔法や罠カードの使い方、効果発動のタイミング、全部全部、素良はわたしの為に教えてくれる。丁寧な説明、実践、教えてくれている時の素良の声が、大好き。
だからわたしは優等生になれた。素良のおかげで、わたしは素良の隣にいる権利を得た。
お揃いの青を纏って、色んな人を見下ろす。少しだけ怖かった、けど素良が居たからわたしは平気。
「凄いと思わない?」
その言葉に相応しい返事は、分からなかった。けど、素良が言うのならきっとそうなんだろう、ここから見える景色は、きっと色鮮やかで綺麗なんだ。
――わたしの目に映るのは、何もない灰色の世界だけれど。
暗転。
僕は菟雨が大好き。好きで好きで仕方がない。理由なんて今更分からないよ、けど好きなの。僕はどうしようもないくらい菟雨が大好き。
同じ色の髪、目、肌、全部僕の為に存在する同じ存在。双子なんて名称じゃ片付けられない、僕たちは同一。本来同じであった存在。そう、それが半分に分かれちゃったから僕はこんなに菟雨が好きなのかもしれないね。自分大事に、ってやつなのかな。
必死で家族として愛そうと努力する菟雨は本当に可愛いよ。僕の為に頑張る姿は最っ高なんだ!僕の為、ああ、いい響きだと思わない?僕の可愛い菟雨が、僕の為に!馬鹿だよねえ、どうして同じ存在を家族として愛する必要があるの?自分を自分として愛するの?そんなのおかしいじゃない!なら開き直って他者として愛すればいいのに、僕は全部全部受け入れてあげるのにさあ!
そうだよ、僕は菟雨が一人の人として大好きなんだ。
菟雨を僕の手元に置く為、僕は何だってした。アカデミアの入学だって殆ど無理矢理、寮も部屋もお風呂も食事も制服も何もかも同じ、お揃い、一緒!
その為に僕とっても頑張ったんだよ?菟雨がお勉強を頑張ってくれるよう目一杯優しく教えてあげたり、菟雨の好きなものをプレゼントしたり、一緒にデュエルしたり…全部全部、菟雨の為であり僕の為でもあるの。
生まれた時から一緒、此処に至るまで一時も僕らは離れた事ないんだ。……そう、あの日を除けばね。
あああ、思い出しただけで腹立たしい!エクシーズの負け犬共が…そう、丁度入学して五度目の狩りの日の事!あの日連中が菟雨を狙ってデュエルを仕掛けて、僕の菟雨にダメージを負わせたんだよ!あり得ないでしょう!?僕の菟雨に、あの負け犬が!僕以外が傷を負わせるなんてさ!!
けどもっと許せないのはこの後。
あ、勿論デュエルは菟雨が勝ったよ?彼奴らは完膚なきまでにボコボコにされた。けど問題はその後なの!あいつら、菟雨がカード化の処理をしている間に何をしたと思う?
腕を引いて誘拐したんだよ!僕の菟雨を!!負け犬が!!菟雨に触ったんだ!!!
今だって連中に触られた部分を見ると嫌気がさす。 全部僕で上書きしたって、あの負け犬に触られた事実は消えないんだよ!気持ち悪くて反吐がでる!!
あの日の事は僕もう二度と思い出したくないっていうレベルでムカつくの。菟雨の腕を引いた連中?そんなの殺したに決まってるじゃない!カード化なんて生温い事するわけないでしょ!?
どいつもこいつも調子に乗って菟雨に触って、本気で人のもの勝手に触っていいと思ってるの!?菟雨は僕で僕のものなのに!
……本当は監禁して誰の目にも入らない場所に閉じ込めたいよ。けどほら、菟雨だって学生だし、それは無理な話なんだよねえ。
いっそのこと荷物として持ち込んだらよかった、なんてちょっとだけ後悔してる。けどそんなこと思っていたって変わらないもんね。
だから僕、あそこまで、菟雨のこと一生懸命育てたんだよ?
一緒にいる為に、僕は、こんなに――。
そう思って、僕は溜息を吐く。今この壇上にいるのは僕と菟雨、そして教師の先生だけ。
"特別任務"、それは僕たち双子に与えられた、優秀な者にしか与えられない物凄く名誉な存在。
背筋を伸ばして礼をする僕たち二人に、壇の下の後方から大砲のような拍手が送られた。
少しだけ不快に思ったのは秘密だよ。
「ね、凄いと思わない?全校生徒が、僕たちを祝福してるみたい」
いい景色だよね。
そう続ければ、菟雨は黙り俯いてしまう。あーあ、つまんないの。菟雨が見てくれなきゃ、こんなもの見る意味ないのに。
赤黄色青、面白味のない三色が有象無象のように沢山。つまんないなあ、お前らなんか見たって何も面白くない。
菟雨の横顔から覗く黄緑色の瞳は、まるでキャンディみたいにまあるくて美味しそう。いいな、欲しいな。その目で、僕だけを見てくれないかな。
「ねえ、菟雨」
「……なあ、に」
「特別任務、全部終わったらその目頂戴?僕のご褒美」
「………うん」
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