(暴力的描写注意)
「零羅くんの一番はわたしで零羅くんが好きなのはわたしでわたしには零羅くんしかいなくて、零羅くんは、零羅くんの全部はわたしの」
そう言って頭を掻き毟る大切なあの子を、僕は冷めた目で見続ける。嫌いじゃないんだ、あの子はとってもいい子だから。
泣きそうなあの子はすっごく可愛い、だから僕は抵抗しない。苦しむあの子はとっても綺麗、だから僕は何もしない。
そうやって苦しむ姿をみているのが僕は好き、あの子は僕を虐めるのが好き。お互いに利害関係は一致してるんだから抵抗する理由もない。
僕が声を出せばあの子は僕を殴る、あの子はとってもおばかだからそうやって単純なことしか出来なくなる。
また傷がつけば兄さまが心配する、けど心配するだけで干渉はしてこない。僕がそれを拒絶するから、僕は兄さまよりあの子のほうが大切だから。だから僕たちはこの異常な関係を続けられる。
あの子が苦しむ姿をみてるだけの何もない生活、何もない世界。
それでいいんだ、そう思いながら僕はまた頬を叩かれる。少しだけ痛いけどそれがあの子の形なら僕はなにも構わない。だってそれが理想だから、幸せだから。
「違うの、わたし零羅くんの一番でありたいだけで、わたしは……!わたし零羅くんの一番じゃなきゃいや、零羅くんが他のもの見るのがいやなの!零羅くん、ねえ零羅くん!?
いや、いやだ、どこかに行こうとしないで、わたしを置いて行こうとしないで、ねえ零羅くん、おねがい、どこにもいかないで、ねえ」
僕は置いて行ったりしないよ、なんて短い言葉も口に出すのは臆してしまう。いまのあの子はとってもぐるぐるしてるから、可愛いから。
その目から零れる涙はやっぱり綺麗で、その口から零れる沢山の気持ち悪い言葉もやっぱり綺麗。ぐるぐるまわるあの子はいつだって僕のことしか見ていない、兄さまのことすら嫌いになってしまうくらいあの子は僕しかみていない。
そんなあの子が可愛くて、なによりも可愛くて好きで胸がこんなに苦しいんだ。
デュエルに対する好きとあの子に対する好きはまるで違う。あの子に対する好きの気持ちは、まるで呪いだから。そう思うだけで頭の中がそれだけになる、あの子が僕を支配する魔法の言葉。逆に言えば、僕もあの子を支配できる素敵な言葉。
僕しか見れないあの子はすき、なによりも好き。従順で頭が悪くて単純なあの子が、おばかでいる限り僕はあの子のことが好きでいられる。
たとえ血塗れになっても痛くても苦しくても僕はなにも言わない、そうすれば僕たちは幸せでいられる。あの子はすぐに物を忘れるから、だから余分な情報は教えられない。
菟雨ちゃんはいつだって、
「菟雨、ってだれ?ねえ、菟雨ってだれ!?ねえ、菟雨って誰なのよ!ねえ零――あれ、貴方だれ……?わたしどうしてここにいるの?ねえ、わたしどうしてこんな……貴方はなんでそんなに傷だらけなの?
わたし人を探して、ああ、わたし、わたし追いかけていた筈なのに置いてかれて、わたしどうしたらいいの……?
こわいよ、おねがいたすけて、だれか、だれかあ……」
また、やり直さなくちゃ。
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