触らないでほしかった。
貴方の綺麗な色の目に、わたしの汚い傷なんて映さないで欲しかった。素良と同じ水色の髪を、見ないで、ほしかった。
全部全部、わたしの我儘。それを自覚していても尚、わたしは我儘を言い続ける。
ごめんね、ごめんね。けど、見ないで欲しいの。
蹲ってそう伝えるわたしは、顔を上げないまま。遊矢くんの綺麗な色の目も見えない、遊矢くんがどんな顔をしているのかも、分からなくて。
「俺、菟雨のこと、探しに来たんだけど」
――俺じゃ駄目、だったのかな。
悲しそうな声。ごめんなさい、わたし、悲しませるつもりじゃなかったのに。
「駄目じゃ、ないの。ごめんなさい」
そう告げても、わたしが顔を上げることはない。こんな人でごめんなさい、我儘でごめんなさい。どうか、嫌わないで。
ぼろぼろと溢れる涙に、嗚咽が止まらない。体を縮こめた体制だから、息だってとってもしづらい。
けど、それでもわたしは顔を上げられない。遊矢くんに見られたくないの、わたしの、素良と同じ黄緑の目を。
「怖いの?」
「違う、違うの。わたし」
「やっぱり、素良が良かったとか」
「違う、違うの…ごめんなさい……」
わたしの髪を撫でる遊矢くんの手は、とっても優しい。安心するって、いうのかな。素良とはまた違う、不思議な感覚。
まるで泣いてる子を慰めるお兄ちゃん、優しい貴方が羨ましい。
遠くで傾く夕日の光が、わたしの目に少しだけ入り込む。コンクリートで固められた地面の色が、オレンジ色に少しだけ染まって。
「カラスが鳴くから帰りましょ、って言うだろ?素良もきっと、怒ってないよ。喧嘩は謝るのが一番いいから」
ああ、喧嘩だって思えるんだ。貴方は純粋なんだ。
この歪んだ関係が、言葉が、全部"仲良し"の双子なんだって思えるんだ。
突然吹いた風が、わたしたちの髪を揺らす。赤と緑の綺麗な髪、とっても見たいけど、こんな顔遊矢くんに見せたくない。
「菟雨」
素良とは違う、その、わたしを呼ぶ声。素良とは違う、頭を撫でる、その手。
素良しか知らなかったわたしに、いろんな事を教えてくれる。
「帰ろう」
帰ったら、また、素良しか見えなくなっちゃうのに。
「ゆうや、くん」
「ん?」
「わたしの腕、ひいて、くれないかな」
我儘で、ごめんね。そう続けて、わたしはそっと腕を伸ばす。
「いいよ」
優しい声で笑って、遊矢くんは、わたしの腕をぐって引くの。握られた手が、とってもあったかい。
帰ったら、この感覚も忘れちゃうのかな。そう思えば、また大量の涙が溢れてくる。
腕を引いた勢いでわたしを抱き締める遊矢くんと、遊矢くんに抱き付いて涙を流すわたし。ああ、まるで、恋人みたい。
目は、やっぱり、見せられないけど。それでも、わたしは。
「ごめんね、ごめんね」
――わたしが泣き止むまで、少しだけ、待って。
嗚咽の中、必死で言葉を紡ぎ出せば。
「ああ、いいよ」
そうやって、優しい言葉が、帰って来るんだ。
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