パステルカラーを持った可愛らしい棒付きキャンディー、触れればすぐに溶けてしまう甘い甘いチョコレート。
甘いものも可愛いものも全部嫌いだ、素良がわたしより夢中になるものは何もかも嫌いだ。
「――嫌い」
素良がわたしを見てくれないのも嫌だ、わたしより優先するものがあるのはとっても嫌だ。
わたし達は双子。誰よりも長く素良の隣にいて、誰よりも素良のことを知ってるのはわたしだけ。だから素良のことを一番好きなのはわたし。
「――嫌いなの」
だから素良はわたしを優先しなきゃいけない、わたし達は双子だからお互いに家族として愛し合っていなきゃいけない。大切に思っていなきゃいけない。
男と女の一線を超えることは許されない、たとえそれを望んでいたとしてもその一線を越えればわたし達は世界から弾き出される。
異端はすぐに棄てられるから。
「――嫌いなの!」
素良はいつだってわたしのことを見てくれない、その手が掴めそうで掴めない事実はずっとずっと変わらないもの。
必至で追いかけても素良は立ち止まってくれない。寂しい、なんて言葉を口に出せばすぐ頬を叩かれる。
素良の愛は特殊だ、けれどその愛は何一つとして伝わらないし理解も出来ない。
愛されているという事実はどうすれば理解できるのか、愛とはなんなのか。普通の愛を受けたことの無いわたしにはきっと一生わからないんだろう。
「素良のことが嫌いなの!そうやって、そうやってわたしを一人にする素良が嫌いなの!!」
ああ言ってしまった、言葉にしてしまった。
そうやってわたしから素良を突き放して、またお互いの距離が離れていく。いつだってそうだ、素良との距離が縮まる事は一切ない。必死にわたしが追いつこうと走っても、素良は歩くペースを変えないのだから。
時々振り返って、笑いながらわたしを見る素良が何よりも怖い。そうやって確認して嘲笑う素良が、時々素良じゃないように見えるから。
わたしは馬鹿だ、素良の言うとおりいつだって馬鹿だ。頭が悪い。要領が悪い。全てその通りだ、素良の言うことはいつだって正しい。
ぼたぼたと零れる涙が素良の好きな甘い金平糖のようで凄く気分が悪い、わたしから排出される物さえもわたしの嫌いなものになるなんて。
素良の好きなものは全部嫌いだ、所詮子供の嫉妬だとみんな笑うんだろう。けれどわたしは嫌いで仕方が無い、わたしを置いていく素良が追いかけるものの何もかもが嫌いで仕方が無い!
だからわたしは拒絶する、何もかも自分から突き放して自己嫌悪を繰り返す。
素良が腕を引き上げてくれる日はきっと来ない、それを知っていても自ら苦しみに沈む自傷がやめられない。
こんな言葉を吐いて、素良はどんな顔をするだろう。もしも〈あの日〉みたいな救いのある顔をしてくれるのならわたしはそれだけで幸せになれるのに、もしも一筋でも光を与えてくれるのならわたしは。
「僕も、そうやって我儘言う菟雨は大っ嫌い」
真っ白い雪みたいな、冷たい声でそう吐き出される言葉。
嫌い?何が、誰を、どうして。そんな、嘘よ、嘘だよ。
素良はいつだってわたしを置いて何処かへ行ってしまう、ほら今だってそうやって遠くに消えようとする。
やめて、寂しい、わたしを置いていかないで、
そうやって必死に手を伸ばしてもわたしの手は短すぎる、ついて行こうと立ち上がろうとしても足に力は入らない。
またわたしは置いて行かれた、またわたしは一人になってしまう。
一人になったわたしを見て素良がまた笑うんだ、「菟雨はおばかだよね」違う、わたしは馬鹿じゃない!
ぐるぐる回る、素良と同じ色をしたわたしの目が気持ち悪いくらいぐるぐる回る。酷く気分が悪く吐きそうになる、怖い、一人になるのはとても怖い。
いやだ置いて行かないで、わたしを一人にして苦しめないで!どんな形でもいいからわたしを一人になんて、お願いだから、ああ。
「素良、まってお願い、そら」
「僕のこと嫌いなくせに呼び止めるの?」
「違う、ちがうのそら、まって、お願い」
「僕は菟雨が望むように動いてるだけなのに」
「ちがう、望んでなんかない、わたしは素良に」
「愛してほしいんでしょ」
「ちがう!わたしは!!」
――わたしはまた嘘を吐く。
兄妹間で男女の愛なんて抱いちゃいけない、だからわたしは嘘を吐かなければいけない。そのせいで素良が悲しい思いをするのはいやだから。
わたし一人が我慢すれば素良は普通でいられる、わたしたちは普通の双子でいられる。だから素良には普通でいなきゃいけない。それが普通である理由になるから。
わたしは素良が好き、大好き、その愛は家族愛でなくちゃいけない。素良の異性としての愛を受け入れちゃいけない。
わたし達は普通でなくちゃいけないから。
「わたしは、素良の家族でしょ」
「……そんな家族ならいらない」
「そ、ら」
「菟雨が苦しむだけなら、僕家族なんかいらない」
駄目、その言葉はいけないものなのに。
わたしの腕を引くその言葉を告げられて安心してしまった、本当にそうなってしまうと思い喜んでしまった。
ぎり、と地面を睨みつける素良が酷く悲しそうに見える。どうして、どうして素良が悲しむ必要があるの?
素良がわたしを救ってくれる日はきっとこない、それを知っているからこそ涙が零れて息が苦しい。
普通の双子になる為の第一の過程、愛とは常に平等であるべきだ。異端な愛は常に世界から弾かれる。
わたし達は普通でなくてはならない、けれど普通の定義など誰も知らない。
「――普通でなくちゃ、いけないのに」
「……」
胸が苦しい。普通とは一体なんなんだろう、どこまでが普通でどこまでが普通じゃないんだろう。
普通の定義すら知らないわたしがどうして普通を決めているんだろう、何もかもわからない、何一つわからない。
素良に嫌われたくない、素良と一緒にいたい、追い付きたい、一人になりたくない。
家族として、愛してほしい。
わたしは我儘だ、酷く我儘だ。
自覚があるからこそ、わたしは今胸が苦しくて仕方が無い。
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