ハリネズミ | ナノ
いつか呟いた「置いてかないで」は、誰の為の言葉なのだろう。自分の為?それともわたしが大好きな、わたしの双子の兄の為?
今ひとつ覚醒しない意識のままゆっくり白いシーツを蹴れば、軽い布団がごそごそと音を立てた。隣で眠る素良も、目が覚めたのだろうか。
窓の外はまだほんのりと薄暗い。でも融合次元はいつだって曇り空に覆われているから、時計を見なければ時間など分からないのだ。まあ、その肝心の時計も、先日電池がなくなってしまいこの部屋の壁掛け時計は沈黙を保ったままなのだけれど。
就寝前ベッドサイドに置いたはずの目覚まし時計を手探りで探しても、ぼんやりとした意識のままでは上手に探す事ももままならない。もしかしたら寝てる途中床に落ちてしまったかもしれない。そう思うと、先程まで"起きなければ"という感覚で埋め尽くされていたわたしの脳内は一気にやる気が消え失せてしまった。
掛け布団に包まれ、気持ち良さそうに眠る素良に目を細めれば何故か眠気が振り返して。先程の音はただの寝返りだったようだ。なんだか、一気に気が抜けてしまう。

「……にどね、してもいい…かなあ……」

ふわ、と小さく欠伸をしても返事が返ってくる事はない。だがしかし、素良の静かな寝息だけは薄暗いこの部屋で静かに響き続けていた。
髪を下ろし、猫のような目を伏せた素良の姿は女の子と見紛う程に可愛らしくて。双子の兄なのに。なんだか悔しくなってその髪をそっと撫でれば、素良はわたしの指に頬をすり寄せ幸せそうな表情を浮かべていた。
その笑みにつられて表情を崩せば、不思議と心が満たされて。素良はいつだってずるい人だ、ふとした瞬間に見せる表情で、こんなにわたしを満たしてくれる。普段の悪戯猫のような表情も、わたしと二人きりの時にだけ見せる焦燥しきった顔も、大好きだと何度でも繰り返す泣き出しそうな表情も、こうして無防備に眠っている表情さえ、全てわたしだけが知っている事。そう思ったらなんだか、ずるいのは素良じゃなくてわたしなような気がしてきて、よくわかんなくなっちゃった。

水色の髪を白いシーツに散らばせて、そっと緑色の目を閉じれば夢の中に溺れていくような錯覚を感じてしまった。幸福だ、わたしは今とてもとても満たされている。空いた掛け布団に潜り込み小さく丸まった体制になれば、素良の手がわたしの手にぶつかって、思わずそっと握りしめてしまった。
素良の手から伝わる体温が眠気を促して、わたしの意識は白色に霞んで行く。
大好きな素良の隣で、心地よい眠気と一緒に、素良の手を握ったまま眠る事ができる。こんな幸せな事は、きっと他にない。

「……おやすみ、なさい」

ぽつりと呟かれた言葉に返事はなかったけれど、握りしめられた手に力がこもった事をわたしは薄れゆく感覚の中で感じ取った。


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