text | ナノ
 ||| タスクくんと絵本の山


(捧げ物)


昔何処かで見た御伽噺。
魔女のお婆さんが作るホットケーキ、ねずみおばさんのサンドイッチ。うさぎさんのショートケーキに、アダムとイヴの赤いりんご。
甘くて美味しい筈なのに、何故か涙が出てくるお菓子たち。
とろとろでふわふわな筈なのに、逆さまにしても破いても食べることは出来ないのはどうして?

ぱちぱちと目を瞬かせて私はそう言った。
ぽろぽろと零れる金平糖はお星様で、白く濁った透明でキラキラしてる。
ぱちりと瞬く、君の目からも同じ金平糖がぽろぽろ零れ落ちているの。
けれど私はそれを拾ってあげられない。だって触れたら溶けちゃうから。

「どうして泣いているの?」
「ナマエさんこそ、どうして」
「泣いてないわ、お星様が零れてるだけよ」

ぱちり。
そう言ってまた瞬きをする。ぽろりと零れるお星様はとっても綺麗で、一つだけ口に含むと少ししょっぱい味がした。
「ナマエさん」「はい」「どうして泣いているんですか」
泣いてないわ、先程と同じ言葉。
ぽろぽろと零れる金平糖は、可愛らしい表紙の絵本の上に転がり落ちる。
ああ、これ借り物なのに。そう言って小さく呟いて絵本を抱きしめた。
蜂蜜の香りのするパンケーキ、水々しい野菜のサンドイッチ。絵本の中には夢しかなくて、いつでも幸せをくれるもの。
きし、と椅子が音を立てる。
膝の上に掛けられた水色が可愛らしいブランケットは、彼の髪と同じ色をしているから私の一番のお気に入り。
ふわふわとした暖かいブランケットを撫でて、同じ色をしたタスクくんをそっと見つめる。
相変わらず金平糖をぽろぽろと零し続けているその姿に、何故か笑がこみ上げるの。
くす、と小さく笑えば眉を下げて笑ってくれた。やっぱり君は笑っていた方が素敵だと思う。

「ナマエさんが泣き止んでくれてよかったです」
「あら、それはタスクくんよ。私は泣いていないもの」
「そういうことにしておきます」

ぱちくり。
二人で瞬きをして、そして同時に笑い出す。
こうして笑えばタスクくんも笑顔になって、嫌なことも嬉しいことも全て忘れられる。だから笑うのはとっても好きだ。
タスクくんが私の手をとる。タスクくんはとっても暖かくて、やっぱりまだ子供なんだなって思わせてくれる。だからタスクくんに触れられるのはとっても好き。
「ナマエさん」「なあに」「おめでとうございます」
そう言って、タスクくんは私の額へキスをする。
額のキスは〈友情〉〈祝福〉。
君らしいね、と微笑めばタスクくんもふわりと笑う。一つだけ金平糖がまた零れた。きっと彼のは甘いから。

「ありがとう、タスクくん」
「ナマエさん」
「大丈夫よ」

だから早く、迎えに来て。
そう言って、動かない脚をそっと撫でる。
お姫様が眠りにつくのは、王子様を待つため。だから、私は眠りにつく。
お姫様は沢山待って沢山眠って、王子様のキスで一番最後に目を覚ます。
次はちゃんと、唇にしてね?

キラキラした、透明な涙が夕日を吸い込んで反射する。
大きな病院に作られた図書館の、奥の奥の小さな小部屋。
枯れた絵本たちと王子様と一緒に、私はゆっくり眠りについた。


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