text | ナノ
 ||| ノボルくんと屋上


「パプリカとピーマンの違いってなに?」
「六年にもなって何言ってんだお前」
「苦いしまずいし私どっちも好きじゃないんだもん」

べ、と舌を出しながらそう言った。
別に苦いのは嫌いじゃないし、食感も嫌じゃない。けど苦いのよりは甘いのの方が好きだし、ぐにゃぐにゃした気持ちが悪いものよりはさくさくと簡単に砕けるもののほうが私は好き。つまり私はクッキーがとっても好き。
言葉だけの苦い味で出した舌を、親指と人差し指でぐにぐにとつままれる。引っ込めようとしたらちょっとだけ爪が痛くて、思わず口を開けてしまった。うーん悔しい。

「なにふゆの」
「アホ面」
「うゆはい、猫シャツ」
「猫じゃねえ虎だっての!」

ちゅるん、と指から抜けた舌でそのまま罵倒する。けどこれはどうみても猫にしか見えないシャツをきてるノボルくんが悪いと思う。
自分の舌で軽く口内をかきまわせば大分違和感は消える。つままれた感覚がちょっと残ってるけど、まあそれは諦めて。
はあ、とため息をつけば、隣にいるノボルくんが普通に問いかけてきた。
「どうした」「なんでもなーい」「あっそ」だなんて一言で切れる会話のやりとり。地味だけどこれがまた楽しいから好き。
「しりとりしよ」「黄泉の還り路」「超斬撃ドラゴスラッシャー」「アーマナイト・メデューサ」「サウザンドレイピア・ドラゴ…あっ、負けた」しりとりはいつも負ける。

「お前さ、いつもここにいるけど暇なのかよ」
「いつもって程でもないけどまあ…暇かなあ」
「授業は」
「さぼりかなー」
「小学生がサボりとかアホくせー」
「ノボルくんは真面目だよねえ」

…そんなんじゃねえよ。
ため息を吐きながら呟かれたその言葉に、ぱちくりと瞬き。
そういえばこないだのABCカップからノボルくん変だよね。そう思っても口には出さない。私偉い、褒めて。
太陽に一番近い屋上で、ぼーっと下を眺めるノボルくんの横顔。普段と違う雰囲気で、とってもかっこいいと素直に思った。
ベンチに座ったまま、足をぶらぶらと揺らして太陽を眺める。直接見ると目に悪いから、手で日陰を作りながら眺めてる。
なんだかなあ、って思って下を向いたら蟻さんがひょこひょこ歩いてた。この先に蟻さんのお家があるんだなーと思うとなんとなく羨ましくなった。なんでだろ。

「ノボルくーん」
「なんだよ」
「太陽ってあったかいね」
「あんなの、暑いだけだろ」
「私太陽好きだよ。キラキラしてて、みーんな明るくしてくれる」


心なしか透けて見える足を、ぶらぶらと揺らしながらそう言った。


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