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 ||| ノボルくんと雰囲気あだると


にちゃ、と耳に不快な音が纏わりついてくる。
まだ幼い少年の、赤く染まりながら玉のような汗を垂らす素肌にそっと手を這わせた。そのままするりと滑らせれば、息を飲む音が茜色に染まった教室によく響く。
淡い桃色に染まった唇に自身の唇をそっと重ね合わせれば、端から垂れる液体に飲み込まれそうになる。柔らかな唇をたっぷりと堪能した所で、私はゆっくり顔を離した。

「……気持ち悪い」
「ノボルくんの唇、甘くて好き」
「別に菓子とか食ってねーけど」
「そういうのじゃないの、乙女心分かんないかなあ」
「クラスメイトにこんなことせがむ奴が乙女かよ」

は、と鼻で笑うただのクラスメイトの口に二本だけ指を突き入れる。ぐちゅぐちゅと中をかき混ぜて、舌を摘むように責め立てて。
ドロドロとした唾液が私の指をコーティングしてゆく。とろりと溶けたような可愛らしいその表情が私は何よりも好きだ。
べたべたになった指を口内から抜き、自分の口へと導く。彼から分泌された液体が私の体内へと入り、一体化するのにどこまでも興奮してしまう。
ゾクゾクする背徳感に襲われながらも、理性は捨てることが出来ない。
ちゅ、と口の端から垂れる唾液を舐め取ると、身体を起こしそばに置いた濡れタオルで彼の口を拭った。

「で、もう終わりか?オレ早く帰りたいんだけど」
「やだ、まだ駄目だよ。痕消えちゃいそうなの」

そう言って、左手の薬指を見せつける。小さな、それでいて形の良い爪の生えた薬指の根元には赤く円を書いたような痕が残っていた。明日になれば跡形もなく消えてしまいそうな程の、随分と薄くなった痕跡。
自分でもわかる程口角が上がってしまう。はあ、とため息をつく彼と対照的にふふふ、と小さく息を漏らすと薄い唇へと薬指を導いた。
桃色に染まった唇を小さくあけ、その暗い口の中へと薬指を導く。薬指を根元まで飲み込んだその口の中で、柔らかく暖かい上顎の感触に恍惚と目を細めた。キスをしている時には感じることの出来ないこの場所に堪らなく興奮してしまう。

少しだけ躊躇ったのを感じた直後、鋭い痛みを指に感じる。どうやら犬歯で噛まれたようだ、それは痛いに決まっている。
痛みに薄く涙を張りながら目を開くと、先程とは打って変わってニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる彼の姿が視界に入ってきた。立場が逆転したつもりなのだろうか、それはそれで面白いが今は認められない。
仕返しとでも言うように彼の手を取り指を取り、薬指を咥えると一息に強く噛み付いた。ほんの一瞬息を飲む音が聞こえたが、直後消えてしまい叫びにはならなかったようだ。ち、と舌打ちをすると舌打ちで返される。考えていることは同じと言うわけか。
先程とは違い、濃く赤く染まった薬指を口内から抜き取る。べたりと唾液に塗れているのは彼が興奮したからだろうか、お互いに人のことは言えないものだ。

「で、これで終わりか?ったく、態々痕付けやがって」
「いいじゃん、お揃いで。どうせ一週間も経たないうちに消えちゃうんだし」
「そしたらまた付けに来いってか。お前本当に小学生かよ」
「そういう知識があるノボルくんもどうかと思う」
「男なら常識だろ」

は、と小馬鹿にしたような表情で互いの体を元の体制に戻す。起き上がって座った状態で、人のいない暮れた教室を見渡した。
もう一回どう?だなんて少しだけ煽ればふざけんなよと冷静に怒られる。それもそうか、流石に飽きる。
仕方ない、と思考を遊ぶ方向から帰る方向へとシフトする。茜色に染まった教室はゆっくりと色を変えている真っ最中だ。太陽は沈み、やがて夜になる。
窓へと近づき、薬指を撫でながら地平線へと消えてゆく太陽をぼんやりと眺める。
何故かは知らないけれど、妙に興奮が冷めないような気がして太陽から目が離せなかった。


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