||| ノボルくんと幽霊お姉さん
「やあ少年おはよう!ご機嫌いかが?」
「な、」
なんかいる!!?
朝の第一声が声にならない叫びだったとはなんとも言えない気分だ。
未だ目覚め切らない頭が見せる幻影のようなものかと目を擦るが、それでも消えない謎の人物。
天井に張り付いたまま器用に欠伸をするとするすると下に降りてきて。
なんで人の部屋にいる、不法侵入じゃないか、警察呼べ警察!
頭ではなんとでも言えても口に出るまで時間がかかる。パクパクと動くだけの口を無視して目の前の女は語り始めた。
「というか少年私が見えるの?まあ見えなかったらそんな反応しないか。うんうん」
「なに一人で納得してんだお前何者なんだよ!出てけよ!!」
「そうは言われてもさー、私幽霊らしくて。今のところ見える人が君しかいないっぽくて」
「はあ!?ふざけんな他の奴の所に行けよ!」
「いやだから見えないから。見えなかったらどうしようもないし」
ほら、足もないでしょ。なんて言うから目線を下に向ければ、確かに本来足のある場所は心なしか透けて見える。だが上半身は普通に不透明だしどう見ても人間のそれだ。
確かに天井に張り付いたり降りてきたりなどという人間離れした技も幽霊なら説明がつくが、理解を超えすぎて脳がキャパシティオーバーを起こしている。
そんな突然「初めまして幽霊です!」なんて言われて信じるか?少なくともオレは無理。というか今現在無理だから。
「だからさ、少年。暫く一緒に居させてよ!ね?」
「ね?とか言われても無理だし。大体なんでオレなんだよマジで意味わかんねー…」
「いいじゃんいいじゃん!私ナマエ。君は?」
「はあ……」
「む、強硬手段か。まあいいや、勝手についてくし。それより少年、学校行かなくていいの?」
「……」
「無視とか酷くない?ねえ、ねーえー!あ、ご飯食べるの?そうだよねー、学生の朝ご飯は大事だもんね。え、ちょっと待ってその手に持ったものはなに?何投げようとしてうわ痛い痛い!痛いってば塩はダメだって!!やめて!!!!」
「煩い帰れ!!墓に帰れよ悪霊が!!!!」
「痛い本当に痛いって!!というか帰りたくても帰れないんだってば!!」
帰れないという単語になんとなく腕が止まった。別に深い意味はないけど、なんとなく。
オレたち人間の考える幽霊の家は墓だけど、そいつにはそいつの元居た家があるって思うとなんだか突然変な気分になった。
突然黙ったオレに疑問を抱いたのか、幽霊は防御のポーズをやめてこっちを見つめてくる。
そっと塩を俺の手から奪うと、オレの手を握って、さっきまでとは違った目でこっちを見つめ、しっかりとした声で言い放った。
「私ね、今何故か成仏出来ないんだ」
「なんで、そんな」
「分かんない。けど、私人を探してるの。
保証はないけど、多分彼に一言言えたら死ねると思うんだよ。だからお願い、君に手伝って欲しい」
「……その探してる相手って」
「君も知ってる相手だよ。だからさ、お願い。手伝ってくれないかな?」
俯いたまま、幽霊はそう言った。
人を探してどうするのか、何を言いたいのか。何故本人の前に現れなかったのか。聞きたいことも納得いかないことも山のようにあった。
けど、俯いたままぽろぽろと涙を溢す姿を放っておくことはとても出来なくて。
また面倒ごとに巻き込まれたなあ、なんて何処かで思いながらその手を握り返した。
「虎堂ノボル」
「へ?」
「名前、いつまでも少年呼びするなよ気持ち悪い」
「あ、えっと、あの」
「だから!手伝ってやるって言ってんの、察しろよ!!」
「あ、あの、ごめ、まって」
「つーか幽霊が泣くってどういう状況だよ……。
まあいいけど。改めてよろしく」
「ごめん、ありがとうノボルくん」
一日目
今朝からオレの部屋に現れた変な奴。
塩は痛がるわりに調理酒は平気だし、足がないと思ったら次の瞬間普通に生えてたりするしで本当によく分からない奴。
けど、あいつが泣いてた時なんか感じたんだ。上手く言葉に出来ないけど、変な感じの。
分かんねーことは山程あるし、あいつの秘密とかもきっと沢山あるんだろう。
けど、そういう事を知るために一緒にいるわけだし、これから少しづつ知れたらいいよな。
それにしても探してる奴って一体誰なんだ?
≫
back to top