text | ナノ
 ||| ノボルくんとシャボン玉


相棒学園から少し離れた、ひと気のない小さな公園。
日当たりも良く、暇な時に遊びに来る場所としてここは最高の立地だ。
そんな小さな公園で放課後、男女が二人きり。なんて魅力的なシチュエーションなんだろう。
普通はドキドキする展開な筈なのに、幼馴染とは言いにくい腐れ縁の二人はドキドキの欠片もなくこの公園でちょっとしたお喋りを楽しんでいた。

「ナマエ、何してんの」
「あーノボルちゃん。変な時に会うねえ」
「お前がオレの前に現れるだけなんじゃねーの?つーかちゃん付けすんな!」
「ノボルちゃんも言うようになったねえ…」


小さくため息をつくと同時にストローを口にくわえた。
既に石鹸水を改造して作った液体にたっぷり浸してあるそれは、軽く息を吹き込むだけでみるみる大きくなってゆく。
肺の中の空気全てをつぎ込んで出来た歪な球体はそれを離れて飛んでゆき、頭上でぱちんと割れてしまった。
球体の残骸である液体が頭にかかるが、そんなもの気にしてはいられない。
次は息を大きく吸って、次は小さな泡を沢山作り出してみた。ぽこぽこぽこ、とみるみるうちに増えて行く泡だが、息を吹き込むのをやめるとすぐ互いがぶつかり合い壊れて行く様が見えてしまう。
あーあ、とそれに息を吹き込むのをやめて、すぐ隣に座った彼に視線を戻す。指にとまった小さな泡を見つめているようだ。

「シャボン玉、ノボルちゃんもやる?」
「は!?い、いや、流石にそれは駄目だろ」
「えー、何々、変なこと想像した?大丈夫新しいストローあげるってー」
「へ、変なことってなんだよ!別に何も考えてねーし!!」
「そうかそうか。まあ一本やってみなさいな」

ぱちん、ぱちんとハサミで先っぽを開いて行く。
先っぽが花開いた状態のストローをそっと持たせれば、ノボルちゃんにしては珍しくおとなしいまま改造石鹸水にストローを溺れさせて息を吹き込んだ。それにしてもまた可愛らしい絵面だ、パル子ちゃんに写真渡したらきっとスクープになる気がする。
どこか遠くを見つめながらぽこぽことシャボン玉を作って行くノボルちゃんは本当に可愛らしい。なんていうか、普段背伸びしてるからか年相応に戻った感じがする。
が、そんな可愛らしい今だからこそ、爆弾を投下するのだ。こういう油断している時に爆弾投下されたノボルちゃんの表情ほんとたまんない、可愛い。

「ノボルちゃんさー」
「だから!……まあいい。何?」
「すっごい昔、私のこと守る為に竜騎士になるとか言ってたよね」
「な、な、ななな!?はあ!?!?そんなこと別に!!別に言ってねーし!!!」
「分かりやすい反応ありがとう本当に昔と変わらないねー」
「おま、なんで年寄りのくせにいつまでもそんなこと覚えてんだよ!」
「亀の甲より年の功だよ、知らない?あと年寄りって言うな。私まだ14だよ中学生だよ!」

耳まで真っ赤に染まった顔、あわあわと落ち着きのない手。ぱくぱくしている口。あーもー、ほんと可愛い。この子可愛い。こんな近くに萌えの塊があるだなんてお姉ちゃん嬉しいよ。
仕方ないから「照れるな照れるな」なんて折角助言してあげれば「照れてねーよ!」だなんて盛大な逆ギレを返される。そこまで怒ることなのだろうか。
頬に手を当て考え込めば、怒ったような恥ずかしいような複雑な顔でこっちを見つめるノボルちゃんが目に入る。なんだー、恥ずかしいのかー。お姉さんがよしよししてあげよう。
だなんて言えば間違いなく怒られる。明日口聞いてくれなくなる。
仕方ないから物で釣る作戦に移ることにした。これが私のファイナルフェイズ!

「ほら、ノボルちゃん。クッキーあげるから機嫌直してよ」
「べ、別にいらねーし。ナマエのクッキー甘すぎ」
「えー、なにそれ。ほらほら、今のうちに食べないと帰りに牙王くんの家寄って全部あげちゃうぞ?」
「…が、牙王にやるくらいなら、オレが食べるけど」
「そっかそっかー。ほらほらいっぱい食べなー」
「……わ、悪くない」
「ノボルちゃん、今日はやけに素直だねー。お姉さんよしよししてあげる」

ふわふわの髪の毛をそっと撫でてあげると、なんかさっきまで普通だった耳が一気に赤くなっていった。なにこれ風邪?ノボルちゃん風邪でもひいたの?珍しく素直だし、クッキー褒めてくれるし、本当にこの子大丈夫?家まで送ってあげるべき?それとももっと調子に乗っていいの?
いろんな考えが頭に浮かんで正直爆発しそうだ。嬉しいと一言に言えないのはなんだろう、明日の反動が怖いから。

「ノボルくんやい。お姉さんがいいとこしてあげようか」
「はあ、いいこと?」
「明日怒んないでね」

そう言いつつも手際良くシャボン玉セットを片付ける。よし、準備完了いつでも逃げられる。
緊張してきたけど良いことと言った手前逃げることはできない。さあ一思いにやってしまえ!ほっぺはノーカンだから!
覚悟を決めて一気に顔を近付けるとノボルちゃんの綺麗な目が当たり前だけど大きく見えた。名前の通り虎のような、綺麗な色をした目。もっと見ていたいけど、今は他の目的があるから我慢我慢。
そっと目を閉じて唇と頬の距離を0にした。ノボルちゃんのふにふにした柔らかい頬が、赤く染まった頬が、ああやっちまった。後悔なんてするわけがない。我が生涯に一片の悔いなし!

予めまとめておいた荷物を持って全力で走り去る。
ノボルちゃんが全力で追いかけてきたら多分捕まるだろうけどあの状態ですぐには追いかけて来れないだろう。あああ明日からどうすんだ!初等部に顔出せない!!


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