||| 学パロアルバくんに構ってあげる
「何してるの?」
「ゲーム」
「ボク暇なんだけど」
「後構ってあげるから」
カコカコとドロップを動かす音が狭い部室に響く。他に音はなく、二人の息遣いとゲームの音だけが部室を占領していた。
そういえばナマエ、最近パズルゲームにハマってたっけ。タイトルはえっと、そう。たしか「パズル&ユウシャーズ」だった気がする。
勇者を集めて冒険をするゲームで、最近CMとかも凄くやってるんだよねまあボクはやってないけど。
でもナマエがやってるなら始めようかな、なんてちょっとだけ思って…。いや、別に構ってくれないからとかそういう訳じゃなくて別に。
まあ話はちょっと逸れたけど、今ナマエはパズユウにハマってて、部活中もずっと遊んでる。だからいつも以上にボクに構ってくれない、以上。
言葉にすると凄く簡単な物なんだけど実際そこまで単純なものでもないんだよね。邪魔すると物凄い形相で怒られるし……。
一応ボクたち恋人同士なんだよね?だなんて時々不安になる。別にゲームをやっているのが不満でもないし、構ってもらえないのは仕方がなあことだと自覚はしてる。けどやっぱり、折角二人きりで部室にいるんだし何かイベントくらい起こしてくれたっていいじゃないか。
「ねえまだ終わらない?」
「まだ、駄目」
光を受けて綺麗に輝くナマエの髪に触れて、そっと聞いてみた。
画面を見ているせいか伏し目がちになった顔は、前髪で隠れている。少しだけ残念だなあ、なんて思っちゃって。
オレンジ色に染まる部室は、埃か持ち込んだお菓子かのせいで独特の甘い匂いを充満させている。
まるでゲームや小説のような展開だ。放課後、恋人同士が二人きりの部室で逢瀬する。なんて素敵なんだろう。
少し前に読んだ本であったっけ、こういうシチュエーションで次に来るのは。
「キス、しよっか」
「……終わったの?」
「うん。だからいいよ」
髪に隠れて見えなかった顔をそっとあげて、ボクを見つめてそう言ってくる。ナマエって本当にずるい。ボクのツボを的確に抑えてくるから。ごくりと唾を飲み込んで、ボクはナマエを見つめる。
白い肌は夕焼けのオレンジを飲み込んで、薄く赤色に染まっている。夕焼けのせいなのか、恥ずかしいせいなのか分んないけど、きっとボクも同じ色している。
待つように目を閉じたナマエの前髪をそっと持ち上げ、ニキビのない白いおでこに小さくキスをした。ふと顔を見れば、目を開けて凄く不満そうな顔をしている。なんでそんな顔するの。
ぐい、とナマエが首に腕を回して、おでことおでこをくっ付けてきた。ああ、おでこ同士をくっつけるってあれ、母さんが風邪引いた時によくやってくれるやつ。あったかくて、安心できる。
「アルバ」
「んー?」
「好きだよ」
「ボクのこと放置したくせに」
ぷく、と頬を膨らませると指でつついてくる。この折れちゃいそうな指も、薄くリップののった唇も、校則違反の甘い香水の香りも
、こんなに甘そうに見えるんだからボクって相当ナマエのこと好きなんだと思う。
背中に腕を回して、抱き締める体制になるとナマエもボクの背中に手を回してくれる。ぽんぽんと背中を叩く姿はまるで母さんみたいで大好きだ。
やがて眠気がやってきて、ゆっくりボクは目を閉じる。ああ、やっぱナマエ、あったかいなあ。
そんな幸せな気持ちは、夕焼けにゆっくり溶けていって。
この後のことは、あんまり覚えてない。
≫
back to top