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 ||| 出会いは馬車の荷台から


「つきました」

馬車に揺られて何時間。
揺りかごのように柔らかい振動はいつの間にかこの小さな魔王様を寝かしてしまったようだ。

ここは魔界と人間界の境目が一番薄い場所。
魔力が薄く、人間に近い種であるわたしへの魔王様からの最大の気遣いだった。

「ルキ様、起きてくださいルキ様」

ゆらゆらと軽く肩を揺すってみても起きるけ気配は全くない。
どうしたものか、と眉を下げてため息をつく。
早く行かなければ。
人間界で魔族が悪さをしているかもしれない。
しかもどこぞの四大魔のバカがこの混乱に乗じて初代魔王を復活させようと企んでいるのだ。
一刻も早くあちらに行き誰か有能な者を配下に置きルキ様の手伝いをしなければ。

空も少しづつ暗くなってきた。
魔カラスが鳴き始めている、もう子供は帰る時間だ。
二代目や奥様がいた時代なら、この時間は使用人としてルキ様の夕食作りを手伝っていたなあ。
そんな少し前までの小さな思い出を思い出す。

ルキ様は、ご両親がいなくなられてとても寂しい筈だ。
それでも、一生懸命魔界の為にお勉強したのをわたしはとてもよく知っている。
こんな小さな手にいっぱいの魔力をためて、頑張るルキ様はとても素敵だったなあとつい先日を思い出した。

空が暗くなってきたようだ。
きゅうきゅうと魔リスの鳴き声が聞こえる。
起きちゃうから静かにね、と一声かけるとみんなすぐ大人しくなるのだから魔リスは賢いものだ。
おやつに、馬車の荷台から林檎を取り出すと喜んで歯をたてる。
この林檎は裏山ブランドの特別な林檎だ、とても甘くて美味しいだろう。
もう一つ取り出し、丁寧に皮を剥くとわたしもそっと林檎に歯をたてる。
やはり甘くてとても美味しい。
ちゅう、と果汁を吸うと喉の渇きが癒された。
ルキ様はたしかうさぎさんの形が好きだっけ、と思い出しもう一つ林檎を取り出す。
向こうにいった時のため山ほど持ってきたのだ、いくら食べても減ることはない。

林檎の甘い匂いにつられて森の動物達がやってくる。
沢山の動物とお喋りしながら林檎を切っていたため、気付けば林檎の山は半分程に減っていた。
流石にやり過ぎてしまっただろうか、と考えるけれどルキ様は森の動物達と仲が良かった筈だ、そこまでお怒りにはなられない筈だろう。

ルキ様が起きるまでまだ少し時間はありそうだ、少し凝った物を作っても問題ないだろう。

「ルキ様、夕食の準備をいたしますね」

元々夕食はあちらで摂取しようと思っていたのだが、ルキ様が起きないのだから移動する術なんて存在する筈がない。
ふわ、と柔らかい頭を一撫ですると頭の羽が少しだけぴくりと動く。

さて、急いでお夕食の準備でもしよう。
デザートにりんごをたっぷり使ったパイでもどうだろう。
嬉しそうに頬張るルキ様の姿を想像してニヤニヤしながらお夕食の準備に取り掛かった。


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