||| アルバと物知り日記
「アルバくん!!」
音もせず割かれたその体を受け入れるのに時間はかからなかった。
心臓が大きくうごく。
日記を開くことができない。
口の中が酷く乾く。
ぬち、という気持ち悪い血の音が唯一現実に引き戻すことが出来る引き金。
頬についた血を拭うことすら出来ずに、涙は溢れて。
「勇者、さ」
「アルバくん、アルバくんアルバくんアルバくん!!」
目を見開いたまま動けなくなるロスさんを突き飛ばし、急いでアルバくんの側に駆け寄る。
息はしていない。
心臓も動いていない。
怖い。
今までの日記にはこんなこと書いていなかった。
突然現れ、これから起きる全ての事が書かれていた筈の日記。
全て、日記の通りにしていればみんな幸せで。
頭の中がぐるぐるする。
未来を予知できないわたしなんて、意味がない。
ゾッとした。
アルバくんの次はきっとわたしが殺される。
怖い、怖くて仕方が無い。
「アルバ、くん」
「ナマエさんもうやめて、アルバさんは」
「アルバくんが死ぬなんて書いてなかった!!」
ビリ、と空気が張る。
ピリピリとした空気が肌を刺激して、すこし痛い。
みんなの顔が、少しだけ滑稽に見える。
「だってそうだよ!こんなこと日記に書いてなかったもん!!
日記に書いてないからこんなの無効だよ、ねえそうでしょ!?今まで日記の通りになってたんだもの!」
だからアルバくんは、死なないよ。
だから早く、生き返ってよ。
そうじゃないと、わたしわかんなくなっちゃうから。
呆然とするロスさんやルキちゃん、お城にいたみんなを他所に一人の黒い男はずっと笑い続けていた。
金髪の少年が私の日記に手を掛ける。
ああ、わたしももう死んでしまうのかな。
泣いてももう、手遅れだけど。
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