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 ||| クロと孫娘の夏休み


「クロちゃーん、またテレビ壊れちゃったあ」
「ハァ!?お前どんな風に使ったらンな早く壊れんだよ」
「わかんなーい、なんだか映りが悪かったからちょっと叩いただけなのになあ」
「そのちょっとの力で縁側に穴開けたのはいつの話だ・・・」

二本足で立ち人の言葉を喋る猫、この猫こそ桜町のフジ井家の安全を守る正義のサイボーグ猫クロ。
そして、くてーと頭を傾けてへらりと笑うこの少女こそフジ井家の孫娘その人。
世間は夏真っ盛り。
遊ぶ相手もいないぼっち・・・ではなく一匹狼の孫娘は、暇つぶしとしてこの祖父母の家に泊まりにきているのであった。

「ったく、毎日の様に壊されちゃオイラのメンテナンスも落ち着いて出来ねえって」
「ごめんねー、ミーくんに頼もうと思ったら逃げられちゃって」
「そりゃ、むしろ踏み潰されかけた相手に追い掛けられたら逃げない方がおかしいだろうな」

フジ井の血は三代続く。
祖父母の極度の鈍さに加えて方向音痴を殆ど完全に遺伝しつつ、そこに馬鹿力というこれまた極端な遺伝子を何処からか拾ってきてしまったのである。
つい先日も、縁側でお茶を飲もうとしたら毎度のように喧嘩を売りに来たミーくんを気付かず踏み潰しかけたという事件があったばかりだ。
縁側の穴も、その時驚いた彼女によって開けられたものである。

「でも壊したっていいじゃない、クロちゃんが直してくれるでしょ?」
「直さねえとジーさんバーさんがうるせェからだろ」
「私がこっちきてからおじいちゃんとおばあちゃん大体遭難してて家にいることの方が珍しいけど」
「・・・」

プラスドライバーを持つ手が露骨にひくつく。
墓穴を掘ったみたいだと一眼で分かるほどだ。
相変わらずクロは分かりやすい。

「・・・クロちゃん、私が暇しないように直してくれてるんでしょ?
大丈夫だよ。クロちゃん達と一緒にいるだけでわたし楽しいから」

「別にその、そういうわけじゃなくてその、あの、なんつーかその、あれっていうかその」
「その?」
「あっ、アレはアレに決まってんだろバーーカ!!!」
「わああ!?」

持っていたプラスドライバーをぶん投げ逃走するクロを追う気にはなれなかった。
プラスドライバーがおでこに刺さって痛いからが最大の理由だが、もちろんクロの気持ちも多少は汲んでの考えである。

「まったく、ツンデレねこちゃんめー」

「誰がツンデレだ誰が!!」

「この距離でも聞こえるってクロちゃんやっぱすごいなー」

凄いと同時に分かりやすすぎて不安になるレベルでもあった。
恐らくあの子はまた博士のところに行ってミーくん達ときゃっきゃウフフしているのだろう。
少し羨ましい気持ちもあるがあえて我慢だ。
クロがおうちに帰ってきたらいっぱい遊んであげよう。
夏はまだ、始まったばかりだから。


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