||| 鹿目まどかと知らない世界の貴方
「27541回」
唐突に告げられた数字の意味を理解するのにはとても時間がかかった。
刃物を突き付けられながらそんな理解不能な言葉を言われたのなら理解に時間がかかっても仕方がないだろう。
「27541回、僕はお前を殺した」
「ど、どういうこと・・・?」
「ワルプルギスの夜に君は死ぬんだ。
それをやり直す暁美ほむらを見てきた。短かったけれどね」
冷たい刃物が首に触れた。
肉を覆うだけの薄い皮膚が鋭利な刃物に勝てるわけがない。
瞼の動きがぱちぱちと早まる。
「僕は暁美ほむらのことが好きなのかもしれない。
けれどお前たち魔法少女は僕と一緒だ。違う時間枠の存在に触れることは叶わない」
とくに暁美ほむらは同じ[位置]の人間だ、と話を続ける。
何を言っているのか正直全く頭が追いつかなかった。
彼は同じ存在、つまりは魔法少女ならぬ魔法少年。
違う時間枠?パラレルワールドなのだろうか。
ほむらちゃんは無事?怪我はしていないの?
ぐるぐると、目がまわる。
わからない。何故どうしてがこんなに積るだなんて。
「鹿目まどか、お前は愚かだ」
「愚かで、まるで僕の知り合いを思い出すよ。
ねえ、」
どうして君のような存在が残れるんだい?
沢山の声が、人が、音が、頭の中に入ってくる。
形、音、心臓、声、顔、体、他には何がある。
いやだ、いやだ。
嫌がったところで、抗える訳がないのは知っている筈なのに。
「お前は暁美ほむらを心配したわけじゃない。
お前は人の心配をする自分に浸って酔っているだけだ」
「そん、な、 ちが」
「鹿目まどかはどこの世界でもそうだ!お前はいつだって自分のことしか考えていない、周りがどれだけ傷付くのか一切考えない!」
「違うよ、やめて!」
「鹿目まどかが・・・違う、神さえも超越する存在がいるからいけないんだ。
暁美ほむらはお前のために何度も何度も繰り返しているのにどうしてそれを止めようとしなかった。
暁美ほむらは、彼女は、ずっと」
ずっとお前のことを見ていたのに。
「どうして、どうして僕じゃだめなんだよ!!!」
これじゃあまるで僕が逆恨みしているようじゃないか。
ぐ、と下唇を噛んで力を込めた。鹿目まどかの首筋に当てられた刃物は小さく震えている。
まるで僕が動揺しているようだ、なんて自虐的に笑えば身体は大きく震えた。きっと武者震いだろう。
「ナマエくんやめて、お願い」
「僕はナマエなんて名前じゃない。僕は暁美ほむらそのものだ」
「違う、違うよ、ナマエくんはナマエだからお願い、こんなこと!」
こんなことやめて、なんて言うんだろう。
泣きたくはならなかった。涙なんて出るわけがなかった。
やめたくてもやめられないのは分かってるくせに。
何回同じことを繰り返さなければならないんだろう。どろりと溶けた僕の影はまるで嘲笑うかのようで、消すことは不可能なのに消そうと無駄にもがく事になる。
「僕はお前をずっと見てきた。ずっとずっと、今も昔も、きっとこれからも。
だから一つだけ教えてやるよ。お前が助かる方法。一つだけ」
魔法少女なんてものに関わるな。
そんな単純なことを、僕は何千回も繰り返し警告していた。
≫
back to top