||| ガスティール様と白猫
(月ブシ10月号ネタ)
(短い)
くろねこだ、そう呟いた小さな声は魂の牢獄の中へと吸い込まれ消えた。地獄と称するに相応しい空間には、あまりに似合わぬ幼い声。けれどそれを肯定するように続きを促す存在が、声の主をゆっくりと撫でる。、
「あそこにくろねこがいます」
「黒猫?」
「黒い竜、でもねこなの」
何処までも広がるのは血肉に彩られた地獄。けれど、静かに穏やかに。少し俯瞰すれば見える地獄を視界から消し去るように、二人の対話は続けられる。
「だれも信用しない、ひとりで戦ってる。かわいそうなねこ」
「気に入ったのですか?」
「はい!見てるととってもおもしろいの」
幼い声の主が瞳に移すのは、一匹の竜。つい先日新たにレリクスの"機構"へと成り下がった、新たな飼い猫だ。紅い剣を紅く染め上げ、死ぬ事も生きる事も叶わぬまま、ただ目の前に立つ存在を斬り伏せる。 「かわいそうなこ」 静かに言葉を落とし、一つ欠伸をこぼす。
闇に染まった空間へ存在を刻み付ける長い白髪。複眼を持つ人型の上で、膝で小さく膝を折り畳む姿。彼の竜を黒猫と呼ぶならば、此方は美しい白猫だろう。
破壊の竜神ギーゼへと捧げる為に試験的に作られた魂の牢獄、レリクス。
この世界に存在するものは全て、ギーゼへの供物へと変わる。創造主たる複眼――邪神司教、ガスティールを除いて例外なく。
「ええ、本当可哀想に」
神殿に響く笑い声は、一体誰へ向けたものなのか。
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