||| ユーリの観察日記
月 日
彼女が僕の手に帰ってきた。やっとだ。
記念として今日から日記をつけようと思う。
今日はとても良い日だ、記念日にしよう。ナマエが僕に従順になった記念日。
月 日
彼女の詳細について書き記しておこうと思う。覚えていても良いものではないが、何かの事故で僕の記憶が消されても困る。
この日記は完全なプライベートだから、発見される可能性は少ないと踏んだ為だ。
エクシーズ次元に迷い込んだ融合使い、それがナマエ。
数年前次元事故に巻き込まれて、エクシーズ次元に降り立ちそのまま向こうの人間として育てられたらしい。
現在はアカデミアに無事保護され、汚いエクシーズのデッキを捨てて融合使いとしての自覚を持って生活している。
もし彼女の記憶を忘れたら、このページを読めばいい。全て思い出して、僕は再び彼女と共に歩めるだろう。
月 日
彼女が頭痛を訴えた。
泣きそうな顔はとても可愛らしかったけれど、痛みはあまりに激しかったらしく数日の入院が必要になってしまった。
月 日
彼女の記憶を改修した。
頭痛を解消する為だけに最低限の処置のみを施したから、それほど酷い障害は残らない筈。
彼女が僕のことをにいにと呼ばなくなったのは問題だけど、この程度ならまだなんとかなりそうだ。
月 日
彼女が僕を見るたびに、少しだけ悲しそうな顔をするようになった。何かあったかと聞いても首を振るだけで答えようとしない。
記憶の中を検索すると、彼女の脳には僕に似た黒い存在が色濃く残っていた。この記憶は削除したから、彼女があんな表情をすることはもう無いだろう。
月 日
過去の記憶が無いと告げられた。彼女の記憶を検索しても、何処にもない。
僕と共に笑った記憶も、彼女が本当に幼い頃キスをした記憶も、大きくなったら僕と結婚すると幼い笑みで告げたあの記憶さえも、全てが綺麗になくなっている。
机の上に置かれた機材を床に叩きつければ、隠れるように置かれたUSBを発見した。
中には彼女の記憶が入っていたらしい。おそらくはこの中に過去の記憶が入っているはずだ。明日はデータを全てペーストしよう。
月 日
数日前から、彼女は僕に対して怯えている。
笑顔すら見せなくなった。
僕は何かを間違えたのだろうか。
月 日
彼女の記憶を書き直した。彼女がまた笑うようになった。これで安心だ。
月 日
エクシーズの残党狩りから戻ったオベリスクフォースが、プロフェッサーに報告していた。
奴らが、ナマエに似た特徴の子供を探していると。
月 日
ナマエが僕の手から奪われそうになった。プロフェッサーの命令だと研究員は言っていたけれど……。
ナマエは僕と一緒に居なければいけないのに。プロフェッサーは一体何を考えているんだろう。
月 日
ナマエがいない。
月 日
ナマエは見つからなかった。
月 日
ナマエは何処へ行ったんだろう。
月 日
ナマエ。
月 日
久々に日記を書いている。今日もナマエは愛らしい笑みを見せたままだ。時折頭が痛むと訴えるけれど、僕が頭をなでれば痛みが治まると言って僕のそばを離れない。
愛しい僕の妹はいつまで経っても兄離れが出来ない子供のようだ。
月 日
明日、プロフェッサー直々の指令でエクシーズ次元に赴く事になった。
ナマエと共にいる時間減るのは困りものだが、それも命令なのだから仕方がない。
女を連れて来いなんて面白みのない任務、何故僕に任せるんだろう。
月 日
先日任務で融合次元に連れてきた女が、ナマエの名を連呼している。ユートだの妹分だの、興味のない単語ばかりが出てきて不愉快極まりない。プロフェッサーの命令でないのならば、今ここでデュエルを挑みカードにすることも厭わないというのに。
赤の他人がナマエの名を呼ぶこと自体腹立たしくて仕方がない。そもそも何故ナマエの名を知っているんだ?
この先の監禁生活で、明らかになるのだろうか。
月 日
ナマエが"僕"を通して"僕"を見ている。
その記憶は何処から出てきたんだろう。ナマエの中に残っている黒い記憶は全て削除した筈なのに。
月 日
明日、ナマエの記憶を全て削除する。
やり直しをすれば、ナマエは僕だけを見てくれる筈。
月 日
ナマエがアカデミアから逃げ出した。
月 日
彼女が僕の手に帰ってきた。やっとだ。
記念として今日から日記をつけようと思う。
今日はとても良い日だ、記念日にしよう。ナマエが僕に従順になった記念日。
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