text | ナノ
 ||| ユーリと子供


ナマエはゆーりさまが大好きです。何よりも何よりも、大好きです。ゆーりさまはナマエの世界で、全てで、ナマエにそれらを与えてくれる人。
ゆーりさまが絶対で、大好きで、ずっとずっと一緒にいたいと思うんです。
たぶんそれは、ゆーりさまに上手に伝わらないけれど、ナマエはそれでも構いません。だって、ナマエはゆーりさまの事を考えるだけで幸せだから。
ゆーりさまに好きと思われなくても、別に、かなしく、は。

「……で?なんで泣いてるの」
「…ないて、ない、で…す……ぐすっ…ひっく……」
「目から涙を零してる時点で泣いてるって言うんだけど」

ため息をつきながら、ゆーりさまはナマエを見下ろしました。ゆーりさまに情けないところは、見せたくなかったのに。
差し出されたボックスティッシュで鼻をかんでゴミ箱にぽいと捨てれば、半分以上埋まったそれはぽすっという可愛い音を立てました。
「僕は泣いてる理由を聞いてるんだけど」
ため息をつくゆーりさま。
「ないて、ない…から……理由なんてないです…」
それに対して、悪い言葉を返すわたし。
「……ああ、そう…」
疲れたような顔をして、ゆーりさまは顔を覆いました。ごめんなさい、ごめんなさいゆーりさま。こんな言い方するつもりは少しもなかったんです。それなのに、それなのに。
「ゆーりさまの一番は、ナマエ、なの」
ぐしゃぐしゃになったスカートを両手で握って、わたしはまた涙をこぼしました。赤色のスカートが涙を吸って、また一段と濃い色に染まってる。
冷たいお部屋の中で、ゆーりさまと二人きり。普段なら、こんなに嬉しいことはないのに今だけは嫌で嫌で仕方がない。

「…僕がいつ、君を二番目にしたの?」
「だって、だって…だって、知らない人が…ゆーりさまの隣、歩いてた、から」
「あれはプロフェッサーの命令で指令を出してただけ。そもそも、僕に言い寄る人間は誰であろうとカードにするから」
「……そう、だけどお…!」
「だけど、じゃない」

ぴしゃりと言い放って、ゆーりさまはいつもより冷たい目でナマエを見ます。嫌われちゃった、ゆーりさまのお傍にいられなくなる。そう思うと、さっと頭が冷えて怖くて不安で足元が覚束なくなりました。いや、ゆーりさまに嫌われたくない。捨てられたくない。ゆーりさまの隣にいるのはナマエで、ゆーりさまの一番はナマエで、誰にもゆーりさまを取られなくなくて、ゆーりさまは、ゆーりさま、ゆーりさま……。

「カードにするならまだ許したよ。けど、此れはやりすぎ」
「ぁ……、ゆー、り…さま……」
「僕は一言も、その手を汚せと言っていない」
「すて、ないで……ゆーりさま…、やだ、やだ、ナマエ、ゆーりさま…あ、ああ……ごめんなさいゆーりさま、ゆーりさま、いや、いや、いや……」
「……」

顔を青くしてナマエは首を振ります。ゆーりさまに捨てられたくない一心で必死にすがりつくのです。
嫌わないでゆーりさま、ナマエを捨てないでゆーりさま。愛してなんて言いません大切にしてなんていいません、ただ、ナマエはゆーりさまの隣に傍に一番の場所に居たいだけなのです。ゆーりさまのすぐ近くでゆーりさまの事を見ていることができるだけで構わない、ただそれだけ。それなのに、それなのに、ああ、あああ、ナマエはこんな些細なことでゆーりさまに捨てられてしまうの?
こんな汚らしい豚のせいでナマエはゆーりさまの一番じゃなくなる?捨てられたナマエなんて存在価値はない。プロフェッサーの命令ですぐに存在を消されてしまう。ううん、消されることは構わない。でもゆーりさまの一番を別の誰かに取られることが嫌で嫌で仕方がない!汚らわしい!ゆーりさまの傍に居ていいのはナマエだけなのに!ゆーりさまの寵愛は!優しさは!ナマエだけが与えられることを許されているというのに!!それなのにどうして!!どうしてあんなごみのせいでナマエに与えられるべきだった愛が剥奪されてしまうの!!奪われてしまうの!?
ナマエはゆーりさまが好き、何よりも好き、あいしている、だからゆーりさまの一番はナマエでなければいけないしナマエの一番は何があろうとゆーりさま。それはアカデミアの中でも揺るぐことのない絶対なルールであり常識。それなのに、それを知っていてゆーりさまに手を出す豚が!!存在する価値のない愚か者がいるから!!!

「ナマエ、は……ゆーりさまの…一番、じゃなきゃ……いけない…のに…」
「……んふ、君が一番じゃなくなったら、誰が僕の一番になるの?」
「……ナマエ、以外がいちばん、なん…て……ゆるさ、ない…。…ころす……、殺して、やる……」
「……そう、それでいい」

唇を舐めてゆーりさまは笑います。ああ、まるで気まぐれな神様みたい。いや、でも、きっとその言葉は間違ってない。
ゆーりさまの微笑みに言葉を失って、ナマエは呼吸すらできなくなる。頭が酸素を欲しがってくらくらするけど、それに答える余裕なんてない。
ゆーりさま、ナマエのことを嫌わないで。あなたの一番はナマエ以外に務まらないの。他の豚なんてみんなごみ、ゴミ箱に捨てられたティッシュ並の価値もない。
「……ゆーりさまに近寄る豚なんて、ごみなんて、みんなみんなしんじゃえばいい」
その言葉と涙を零した瞬間、ゆーりさまの唇とナマエの唇は重ねられました。ちゅー、してるんだ。頭の中でそうおもって、ぼんやりとしたまま考えることをゆっくりとやめます。
ゆーりさまにしてもらうちゅーは、気持ちよくてあったかくて安心する。
舌がぐちゃぐちゃして、どろどろになって…なんだかゆーりさまと一つになっているような気がして、すごくすごく、安心する。
酸素が足りなくて、やっぱり頭はくらくらする。でもゆーりさまがちゅーする合間に時間を作ってくれるから、ナマエは一生懸命息を吸ってゆーりさまとちゅーする時間を作るの。
「もっと、もっと…して……?」
「ん、いいよ」
口の端から、唾液が垂れちゃう。もったいないなあって思ったけど、ゆーりさまが舐めとって飲み込んじゃった。
ゆーりさまのちゅーは長くて苦しいけど、その分気持ちよくてあったかくて幸せな気持ちになれる。こんな状況なのに、ナマエはすっかりゆーりさまとのちゅーに夢中になっちゃった。
もっともっとっておねだりすると、ゆーりさまはそれに答えてくれる。ナマエのわがままを聞いてくれる、ナマエだけの王子様、神様、支配者。

「どう?満足、した?」
「……っふ…ぅ……」
「何、まだ足りないの?」
「…ん……」
「さっきまで何してたか、覚えてる?」
「……豚、殺して…た……」
「僕が怒ってた理由は?」
「……カード化、しなかった…から……?」
「…違うよ。君の手が汚れたから」
「……?」
「返り血。汚いでしょ」
「……あ…」

その言葉で、ナマエはようやく気付きました。べたべたのおててと、真っ赤なお洋服と赤ばっかりの足元。ゆーりさまの綺麗な靴も赤色がついてて、なんだか少しも綺麗じゃない。
ゆーりさまの足に、豚の血がついてる。それに気付いて、かっと顔が熱くなったけどゆーりさまはそっとナマエの頭を撫でて熱いのを冷ましてくれる。
「僕の一番はナマエだけ。優秀で愚かで……何よりも可愛い、僕の奴隷」
耳元で囁かれる言葉に、ナマエは何よりも安心するの。ゆーりさまの一番、その場所は今日も無事に守られた。ナマエはゆーりさまのもの、それは何があっても揺るいだりしない。
「今度はちゃんと、カードにしなきゃ駄目だよ。プロフェッサーに怒られちゃう」
「……わかり、まし…た……」
次は、ゆーりさまの言うとおりにしなきゃ。従わなきゃ。
ゆーりさまの一番はナマエ。ゆーりさまの事を何よりも愛していて大切に思っているのも、ナマエ。ゆーりさまに全てを与えられて、すべてを肯定されているのは幸せなこと。だからナマエはゆーりさまの傍にいる事を望んでいるし、ゆーりさまもそれを受け入れてくれている。

好きとか大好きとか愛してるとか、そんな言葉じゃナマエの気持ちを吐き出すことはとてもできない。ナマエを構成するのはは、ユーリという存在全て。ゆーりさまがいるからナマエは居るの。ゆーりさまに愛されないナマエなんて、いらない。

ゆーりさまに求められる限り、ナマエはずっとゆーりさまの傍にい続ける。もしもゆーりさまがナマエを必要としなくなった日が来ても、もしもナマエが二番目になる日が来ても、ナマエはそれを認めたりしない。だって、その新しい一番が出来たのならそいつを殺せばまたナマエが一番になれるでしょ?
ゆーりさまの一番はナマエだけの場所。何処にでも居るごみ以下の家畜なんかに、務まる場所じゃない。

「……ゆーりさま、もっともっと、ちゅーして…?」
「んふ、いいよ。続きは部屋で、ね」

そう言って、ゆーりさまはナマエを抱っこしてくれる。冷たいけれど、心地よいゆーりさまの体温がナマエを肯定してくれているようで……何よりも、安心する。
ぼんやりとした意識のまま目を閉じれば、ゆーりさまの声が頭の中でずっと響く。
「……何よりも可愛い、僕の奴隷」
ナマエは、かわいいのかな。ゆーりさまの奴隷でいても、いいのかな。
すき、だいすき、なによりもすき。たいせつ。そんな簡単な言葉ばっかりだけど、ナマエはゆーりさまが一番すき。
本当はゆーりさまに愛して欲しいし、大切にだってしてほしい。でも、そんな我儘は言えないから我慢するの。ナマエはゆーりさまの一番でいればいい。愛なんて、そこにあってもなくても変わらない。

「 、   」

ぼんやりとした頭の中で、何か言葉が聞こえたけど――一体、なんだったんだろう。


back to top
「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -