text | ナノ
 ||| 伴星と星を眺める人


(落ちない)

子供の頃は、星を見るたびわくわくしていた。宇宙の中に輝く沢山の星がとても綺麗で、今思えば恋心にも似た感情を抱いていたような気がする。
自分の手の届かない場所で必死に輝く星たち。見えるのに手の届かない苦しみ。ここからならこれほど近くに見えるのに、実際は到底手中に収める事のできない途方もない大きさ。
私は星が好き、宇宙に漂う彼らが好き。手に入らない存在が、好き、なの。

「マイヴァンガード」
「……触らないで」
「貴方の要望は全て叶えられる。一体何が気に入らないのですが」

私の隣に立つ、伴星の名を与えられた星輝兵はまるで人間のような悲しい声色で私に言葉を投げかけた。
その人工的に作られた皮膚も、柔らかな髪も、仕草も表情も全て本物の人間に限りなく寄せて作られたもの。彼はサイバロイドという、あくまで作られた兵士であり私の世話をする為に存在する人形ではないのだ。
本来の用途としては戦場に赴き将を補佐するものなのだと、私を此処へと連れてきた禍々しい赤黒龍は自慢げに話していた。恐らく察するに、目の前の伴星はあの龍の作成した――彼にとっては、作品と称するに値する存在なのだろう。
ここは宇宙、リンクジョーカーの船の中。私に、それ以上の情報は与えられていない。そもそも知ろうとさえ私は思っていなかった。
窓の外を見れば、どこまでも広がる漆黒の宇宙空間と時々輝き命を燃やす輝かしい星々が視界に入る。この部屋に閉じ込められてから、わたしは、一度としてこの場所を離れる事はなかった。

「もう三日も水分を摂取していらっしゃいません。体内の水分量が低下しています」
「……必要ないの」
「貴方がこの場で死ぬのは許可されていない事です」
「機械は、そうやって決められた事ばかり言うのね」
「私のように擬似感情機能を搭載した個体は各々が相手の反応を学び、それを元にさらなる"より忠実な使用しやすい存在"へと変化します」
「……私が返事を返さなければ、貴方は成長しない?」
「その場合は、私がカオスブレイカー様に破壊される事になるでしょう
「壊される事は、怖くないの」
「怖い、とは何でしょう」

窓からゆっくりと視線を外せば、まるで"初めてそれを知った"かのような表情で佇む一体のサイバロイドの姿があった。
思わず唾を飲み込み、彼の存在を改めて認知する。人間と何も変わらない身体、問題なく質疑応答でき、他者の心配さえもする事が可能な人工知能。けれど、恐怖という人間を構成する上で存在しなくてはならない必要な言葉を知らない彼の姿は、あまりに人間とはかけ離れていて。

「……恐怖心はないの」
「恐怖という存在が分かりません」
「戦う事は嫌じゃあないの、死にたくないとは思わないの」
「嫌と感じたことはありません。我々は死にません」
「死ぬわ」
「それは何故」
「壊れたらもう、戻らない」
「戻ります」
「どうして」
「我々は量産される存在、私が死んだとしても次の伴星がマイヴァンガードの元へと現れ貴方に不自由ない生活を必ず提供するでしょう」


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