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 ||| シンジくんと夢


(落ちない)

俺はよく夢を見る。内容は、幸せなものから不幸せなものまで幅広くだ。夢というのは人間なら誰しもが見るもので、ある意味人の逃避手段の一つとも言えるだろう。
願望、理想、強迫観念、煩わしさ、恐怖、不安。夢というものは、それら全てが目に見える形で自分の目の前に現れる。自らを自覚させるための手段の一つだ。
現状を正しく認識する、何が間違っていたのかを思い出す。これから何をするべきか、今まで何をしてきたか。無意識に心の奥で願っている事や、逃げたいと思い忘れてしまった物事も。
それら全てが俺の前に、夢という名前を冠して告げるんだ。俺が何よりも恐れている、あいつの姿形を模して。

「夢は見たくない?」
「ああ、そうだな」
「どうして?」
「お前がいるからだよ」
「私が嫌い?」
「……どうだろうな」

そう告げれば、薄く笑みを浮かべてあいつは喋るのをやめた。俺が不快だと思ったからなのか、あいつが喋りたくなくなったのか。どちらでも構わないが、俺の夢である以上前者の可能性が高いだろう。
夢の中で対話するとはなんとも奇妙な話だ。過去に――いや。俺は過去、こいつに対してどんな感情を抱いていたのか思い出せない――何かしらの関係を持っていた人間と、会話するなんて。
こいつは過去、俺に対して嫌いかと聞くような人間だっただろうか。俺が夢の中で、こうであってほしいと願っているだけか?考えれば考えるほど、俺もこいつも何を考えているのかわからなくなる。夢の中だから、なんて結論づけるのはあまりに横暴な気がしてしまった。

過去の俺たちは幼馴染で、隣に立つ事が当然のような関係で。それ以上の感情はなく、それ以下も存在しなかった。よく一緒に遊んで、笑って、時には喧嘩もしたりして。そんな何もないごく普通の過去を思い出せば、何故か虚しさだけが溢れかえる。何も知らないあの頃は幸せだった。ただ笑っているだけの過去は、守るべき存在を自覚する前の過去は、お前を失う前の過去は――とても、幸せだったはずなのに。

「貴方は強い人よ」
「そう、だな」
「貴方は優しい人」
「……ああ…」
「だから貴方は、大勢の人を救うのよ」
「……」
「その為に私を踏み台にしたの」
「違う!俺は!!」
「――違わないよ」

そう言って微笑むあいつの姿は、まるで聖母のようで。


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