text | ナノ
 ||| シンジくんを追いかける


置いてかれるのは怖いです、一人になるのは寂しいです。そんな気持ちで埋め尽くされそうで、怖くて怖くて泣きそうになってしまったからナマエは足を止めずに必死に走り続けました。足が痛くてもまめができても、感覚が無くなってもついていきます。ナマエは一人になりたくないからです。
歩幅の大きいにいちゃんとナマエでは、歩く速度もまるで違います。だからナマエは、歩くにいちゃんに追いつくためいつも必死で走っています。そうしないと、あっという間に置いてかれてしまうからです。
ナマエはにいちゃんが一番好き、なによりも大好き。幼い頃捨てられていたナマエを拾って、育ててくれた恩人だからです。ナマエはにいちゃんが大切です、にいちゃんの役に、立ちたいです。だから必死についていきます、にいちゃんの大きすぎる背中を何年も何年も、追いかけ続けています。
でもにいちゃんは、一度も振り返って立ち止まってはくれませんでした。

「シンジにいちゃん待って、歩くの早いよう……」
「お前の歩幅が小さいんだ。もっと背が伸びるようにメシ食えよ」
「食べられるものは食べてるよう…にいちゃんが大きすぎるのがいけないんだよ……」
「オレの身長は普通だ。早くしないと置いてくぞ」
「ああ、待ってよお……」

一緒にお買い物に来ただけの、何気ない会話。側から見たらどんな風に見えるんだろう。兄妹に見えるかな、そうだとしたら嬉しいな。ナマエがにいちゃんの本当の妹だったら、こんな風に置いてかれる事も無かった筈なのに。
実際のナマエたちの距離はそんなに離れていなくて、ナマエが頑張って走ればすぐににいちゃんに追いつく距離。ぎゅって手を握ればにいちゃんは当然のように握り返してくれるし、待ってっていえば立ち止まってさっきみたいにナマエの事を待ってくれる。
でも、そんな事をしてもナマエ達の心の距離は少しも縮まる事はなくて。にいちゃんはナマエの知らないところで、ナマエの知らない辛い思いを沢山してる。それをナマエがとやかく言う権利はないし、言うつもりも少しもない。でも、帰ってくるたび険しい顔で壁を叩くにいちゃんの姿は、見ていてあまりに悲しいものだった。
ナマエはようやく7歳になったばっかりの子供で、難しい事は何も知らない。人とお話しするのも得意じゃないから、にいちゃんの周りにどんな人がいるのかも全然知らない。
だから余計に思うのだろうか。にいちゃんが自分の知らないところで苦しんでる姿を、見たくないと。それがまるで置いていかれているようで、怖くて仕方がないと。


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