||| セクトニア様を追悼する
(原型、擬人化、どちらでも)
(落ちない)
セクトニア様がお亡くなりになられました。その話を聞いて何も感じなかったナマエは裏切り者でしょうか。可哀想なタランザの目は確かにナマエを見ていました、ナマエが裏切り者なのだと彼は気付いたのでしょうか。考えれば考えるほどナマエの中に不安だけが募ります。
その金色の大きな目の一つが、ただ何も言わず此方を見続けている。毒のようにぐらぐらと虚しいほど明るい光を反射しているその目が、何も言わずにナマエをみている。それがどうしても恐ろしくて、ナマエは咄嗟に俯き表情を隠してしまいました。
セクトニア様とタランザとナマエは古くからの友人です、過去に何度も三人揃って笑いあった記憶は今も色濃く残っています。
ナマエとタランザはセクトニア様に忠義を尽くし、セクトニア様はその忠義に見合った褒美を与える。ただの主従関係といってしまえばそうかもしれません。ですが、我々三人は違いなく友人関係であり、ナマエは間違いなく、セクトニア様への忠誠心を抱いていたのだと、ナマエは今でも声を大にして叫ぶ事ができます。
セクトニア様は優しく聡明で、とても美しいお方でした。ナマエには分からない沢山の魔法や、お花や、女性同士の秘密のお話なども沢山した記憶は今も昨日のように思い出す事ができます。ナマエはセクトニア様が、大好きでした。
しかし、彼女は変わってしまったのです。タランザの送った、とても美しい鏡によって。
何もかもが崩れて、壊れて、ナマエ達の幸せな世界は幕を閉じ、まるで砕けた鏡のように沢山の歪な世界を描いて、それら全てを現実のものとしてしまった。
フロラルドに溢れていた沢山の笑顔は失われ、人々の嘆きと悲しみだけが全ての世界を埋め尽くしてしまいました。
セクトニア様のように美しいあの鏡が、何かを語る事はありません。ナマエはあの鏡が嫌いです、どうしようもない程に嫌いです。もしかしたら、あの鏡をセクトニア様に送ったタランザの事も、無意識のうちに嫌っていたのかもしれません。
ナマエ達は友達だった、筈なのに。友達とは何なのでしょう。最早何もわかりません。ナマエは、愚かな存在なのでしょうか。過去、鏡に魅入られたセクトニア様はナマエを美しいと言いました。
其れが何故なのかは、ナマエには理解できないのだと、思います。
「ナマエ、疲れた顔してるのね」
「……そう、かなあ」
形式だけのセクトニア様の葬儀を終えた後、ぼんやりとワールドツリーに座り込んだわたしへタランザは声をかけました。大陸へ背を向けたナマエの顔なんて見えていない筈なのに、彼は一体何を言っているんでしょう。疲れてるのはタランザじゃあないの。そう言葉を返そうと思ったけれど、振り向く労力すら勿体無いと頭の何処かで思っていたのか、喉元まで出掛かった言葉は日の目を見る事なく、わたしの身体の中に飲み込まれ消えてしまいました。
紫色や青色や、様々の色の混じったとても綺麗な遠くの空。宝石のような星がキラキラと瞬き、あと数時間もすれば此処からでも綺麗な月が拝めるのでしょう。
「……夜空、とっても綺麗」
「セクトニア様が見たら、きっと喜んでくれるのね」
「……うん」
でも、ナマエ達がこの景色を見せたい相手はもう何処にも存在しません。
その身体さえ消えてしまった今、葬儀など無駄な事だと皆分かってはいるのでしょう。でも形式です、これらは行う事に意味があるのです。一番セクトニア様に近しかったナマエ達に、祈りを捧げるだけで構わないと言ってくれた城の皆も多分、意味などない事に気付いてはいたのだと思います。
セクトニア様と一緒に過ごした綺麗なお城。長い時間を共にしたこの場所で、ナマエとタランザの間に収まっていた筈の彼女は永遠に眠り続けています。彼女の遺体が何処に行ってしまったかは分からないけれど、この場所で散り、この場所で全てを失った彼女の魂が沢山の思い出の詰まった場所に定住するという可能性は、ない事ではありません。ナマエはそう、思いたい。
「セクトニア様に、会いたい……」
「……それは無理なお願いなのね…」
「……分かってるよ…。でもナマエ、会いたいの……三人でいっぱい笑いあう、幸せな時間を、また…また過ごしたいの…」
「……ナマエ…」
「死んじゃったのは、セクトニア様じゃない……セクトニア様の偽物なんだ…本物のセクトニア様は、優しいセクトニア様はきっと何処かで、眠って……ああ……!」
「……それはあくまで、ナマエの理想でしか、ない…の……」
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