text | ナノ
 ||| シンジくんと子供


(飽きた)

多分、前から違和感はあったんだ。アイツがコモンズだって名乗った時も、親に捨てられたんだって言った時も、一瞬だけ躊躇うような、言葉に詰まる様な感じは気づいていた。でもそれを知りながら放置していたのはオレだし、それを分かっていても尚アイツの笑った顔を見ていたいと願ったのは間違いなくオレだったんだよ。
まだあんなに小さいガキだってのに、無理して取り繕ったような顔で笑って。なんかもう、それが耐えられなかったんだ。ガキはもっと、純粋に笑うもんだろ。そうやって、強引に笑顔を作るもんじゃないだろ。そんな簡単な言葉をアイツに与える為に、オレは周りの人間までも危険に晒しているんだろうか。そう考えたら、オレにとってのアイツがなんなのか余計に分からなくなっちまう。

「シンジにいちゃん、おかえりなさい!」
「おう、良い子にしてたか?」
「うん、ナマエいっぱいみんなのお手伝いしたよ!」

そう言って純粋な笑顔を向けるナマエに、オレは純粋な笑みを返す事が出来なかった。これは罪悪感、なんだろうか。でもそうなんだとしたら、コイツにそれを感じるのは変な話だ。
柔らかい綺麗な髪も、日に焼けず傷もない白い肌も、コイツの存在全てがコモンズの人間なんて名乗るには不釣り合いすぎる。考えれば考えるほど、当然のように幼いコイツの取り繕うボロは面白いくらいに剥がれていった。
それを指摘しないオレも、性格が悪いといえばそれまでなんだろう。
この手の中に収まるくらい小さな存在が異様に無力で、哀れに見えて、ついつい守りたくなっちまう。
柔らかい髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら頭を撫でれば、驚いた表情を見せた直後、嬉しそうに顔を緩めるんだから単純だ。

「良い子へのご褒美だぞ」
「やー、もー…髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃうよ!えへへ…」

子供らしい純粋な笑み。初めて出会った頃からは想像ができないくらいに、ナマエは綺麗な笑みを浮かべるようになって。
……そう、コイツが笑うようになった。だからもう、オレの目的は達成したんだ。純粋に、心から笑ってくれればそれでいい。それ以上は、要らなかった。それなのにいつの間にか、オレはオレでも気付かないうちにこんな――同じ時間を過ごしたいだなんて願望を抱いていると、誰かに話したら笑われるだろうか。


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