||| キョウちゃんのお誕生日
「キョウちゃん、お誕生日なんだってね」
ソファに横たわりながらそういえば、目の前のキョウちゃんは物凄く嫌そうな表情でわたしの方を向いた。
せっかくお祝いしてあげようと思ったのに、その表情はないと思う。そう言おうと少しだけ頬を膨らませて息を吸えば、キョウちゃんは盛大な舌打ちをしただけですぐにまたそっぽを向いてしまった。君は一体、なんなんだ。
「キョウちゃんどうしたの」
「なんでもねーよ」
どう見たって、なんでもある顔をしているけれど。そうは思っても口に出さない。出したらきっと、キョウちゃんはもっと怒るから。
フーファイター本部の柔らかいソファでごろごろしながら、意味もなく過ごす平和な昼下がり。兄様とあーちゃんはお出かけだし、テツはなにやらお買い物に行ってるらしい。カチューシャでも買ってるのかな、なんて勝手な想像をすれば花柄のカチューシャをつけるテツを想像してしまって、うっかり声に出して笑ってしまった。それでそのまま、キョウちゃんに物凄く変な目で見られてしまう。ああ、ちょっと失敗した。
まあ、要するに、つまるところAL4の残り物である我々はお留守番中であり今現在本部のたかーい部屋の中で二人きりなのである。とても暇なのである。
「キョウちゃんお誕生日…」
「だから何だよ」
「おめでたいね」
「それだけかよ!?」
「また歳を取ったね」
「他にねえのか!?」
「白髪が増えたね」
「地毛だよ!!」
「歳とストレスで髪の毛が白く…」
「オレ様の髪の毛は元から白いだろお前の目は節穴か!レンコンか!!穴の開いた靴下か!!」
「おおー、ナイスツッコミ」
「お前またレンに似てきたな……」
げっそりした表情のキョウちゃんに拍手を送れば、舌打ちの代わりに大きすぎるため息が返ってきた。キョウちゃんは本当に面白い人だ、これだから揶揄い甲斐がある。兄様も同じ事を言っていた。
キョウちゃんは自分がいじられ体質だという事に気付かない。それに拍車をかけてあの性格だ、面白くないわけがない。キョウちゃんの髪が白いのは知っているし、たった一つ増えたからといって若いわたしたちが年齢を気にする必要性など今のところは少しもない。でもそれを指摘するとこれだ、この面白いマシンガンのようなツッコミの数々。本当にキョウちゃんは面白い人だ。飽きない人だ。とてもとても、素晴らしい人だ。
「そんなに似てるかなあ」
「そっくりだろ、もう面倒なところがこれでもかってくらいに」
「でもわたしキョウちゃんのお名前ちゃんと覚えるよ」
「名前覚えんのは当たり前だろ、馬鹿かてめー」
「むう」
また少しだけ頬を膨らませて、疲れた表情のままソファに座り込むキョウちゃんをじっと見つめる。普通にしてれば綺麗な顔をしているのに、どうしてこう…性格が絶妙に面白いんだろう。兄様もそうだけど、この世界の綺麗な男の人はみんな残念な性格をしてるのかな。ああ、そういえば櫂も性格がかなり残念だった気がする。もう随分と、会っていないけれど。
「折角の誕生日だってのになんて日だ…」
頭を掻きながら、キョウちゃんはそう言った。
なんだ、お誕生日楽しみにしてたんだ。そう複雑に笑えばキョウちゃんはすぐに頭を掻くのをやめてしまった。わたし、変な事言ったかな。そう思ってソファから起き上がって、互いに向き合った体制になればキョウちゃんは咄嗟に顔をそらしてしまった。
「キョウちゃん?」
「こっち見んな」
「キョウちゃん」
「何だよ」
「向こう向いたからこっちむいてー」
「……、向こうってどっちだよ」
「あっち」
「それじゃ分かんねーよ、馬鹿」
そう言ってキョウちゃんは、ゆっくりわたしの方を振り向く。少しだけ赤くなった頬が、とっても可愛くて少しだけ複雑。
「キョウちゃんかわいー」
力の抜けた表情で笑みを浮かべれば、キョウちゃんの頬の色はもっともっと深くなって。女の子のわたしより女の子みたいなキョウちゃん。ずるいとおもいます。
真っ赤に染まった頬に指先で触れれば、キョウちゃんの肩は大袈裟なほどに飛び跳ねちゃってキョウちゃんびっくり、わたしもびっくり。
赤色に染まった頬をわたしの手でゆっくり撫でる。そんな、ごくごく普通の光景がなんだかとても幸せな時間に感じて、ああ、こんな時が永遠に続けばいいのになあなんて思っちゃって。
「……お前の方が、かわいいだろ」
「キョウちゃんが女の子を攻略するときに発するワードランキング上位に乗るような王道のセリフを吐いた……」
「っせー!嫌なら聞くな!!忘れろよ馬鹿!!」
ああ、キョウちゃんは照れ隠しも可愛いなあなんて、もう。
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