||| 影依の主とミドラーシュ
(落ちない)
笑いながらたくさん言葉を吐き出せば、目の前で力なく身体を横たえたお人形さんは怯えたような表情を見せました。お人形さんなのにおかしな話でしょう。でも、わたしには間違いなくそう見えたのです。
「すごいね、すごいね!きみは本当にすごいね!」
沢山の影に腰掛けながら笑っても、あの子は何も言いません。その緑色の柔らかい髪は揺れる事なく、その作られ整った綺麗な顔は緑色の目の縁を恐怖で彩り、貼り付けたような怯えた表情を見せています。まるで本物の人間のような感情の表し方に、わたしは少しだけ気分が悪くなりました。
わたしの作っただいじなお人形さんが、勝手に生き物に近付いて勝手に禁忌に触れてしまった。その事実は今更どうする事も出来ずに、ただわたしを苛立たせるのです。
可愛い可愛いわたしの一番だいじなお人形、ネフィリムでさえあの欠陥品の生命に壊されてしまった今、わたしに残された手はもう殆どありません。
欠陥品の人間にだいじなお人形さんの多くを破壊され、過去の存在に創造されたプログラムに沢山邪魔をされるというこの現状は、ただただ、わたしを苛立たせるのです。ああ、もう、どうしようもないほどに。
「ぜんぶきみがやったんだね、本当にすごいね!ほめてあげる!」
「ァ……ナマエ…」
「うるさい」
短い言葉だけを吐き出して、その綺麗な顔を強引に踏みつける。そうすれば、可愛いお人形さんはお人形さんらしく静かに大人しくなりました。なんて素敵なことでしょう!
喋るお人形さんはひつようありません。お人形さんは静かで大人しいからお人形さんなんです。だからわたしはネフィリムがだーいすき!綺麗で静かで、大人しくてそれでそれで…後は、なんだっけ。壊れちゃったから、もう、覚えていません。壊れたものを覚えていようと思うほど、わたしは、暇な存在ではないから。
「あの創造物に捕まった時、壊されちゃえばよかったのにね。でも助けたのはわたしかあ」
少しだけ首を傾けてわたしはまた笑います。あの子は顔を上げません。怖くなったのかなあ。それとも綺麗な顔が壊れて綺麗じゃなくなったのかなあ。それはそれで、とっても素敵だと思うけれどなあ。
「なんでわたしのお人形さんは壊れちゃうの?わたしの作り方がだめだったから?それともなあに、やっぱりあの生き物が悪いのかなあ」
「……、ナマエ…」
「あの木を燃やせばいいのかな、それとも機械を壊しちゃえばいいの?沢山の炎も取り込んだらわたしの理想になってくれる?ねえミドラーシュ教えて、きみはいい子だから答えてくれるよね。だってわたしの作ったお人形さんだもの、きみは力を自分のものに出来なかった欠陥品のお人形さんとも、浄化されちゃった欠陥品のお人形さんとも、欠陥した生命に無様に負けた挙句創造物に力を取り込まれた欠陥品のお人形さんとも、違うよね。だって可愛い、ナマエの作ったお人形さんだものね」
ナマエの作った創造物が、欠陥品のはず、ない、よね?
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