||| クロノくんと妖精さん
(設定お借りしました)
(捧げ物)
周囲を飛び回るこの小さい生き物が、妖精という空想上の生物だと理解してそれなりの時間が経った。
人間となんら変わりない容姿をしているのに、その小さい身体といい、背中に着いた大きな翅といい、ある程度見慣れた今でも理解はできない。
これが人間でないのはわかる。けれど、何故空想上の生き物が俺の目の前に存在するんだ。
ギアクロニクルというクランのカードを手にした日から、俺の周囲は変わった。一緒にファイトする仲間ができたし、学校生活も楽しいと感じるようになった。其処までは俺でもわかる。今の生活は、楽しいと思う。
けれど、このカードを手にしたから妖精が見えるようになった、なんてふざけた話、正直全く理解ができない。
俺と同じ髪の色、目の色。錆びた歯車と、半透明の綺麗な翅。精巧なフィギュアと疑われても仕方のないその妖精は、今、紛れもなく俺の目の前に存在している。
「マスター、マスター!」
「なんだよ」
「えへへ、マスター!」
嬉しそうな表情を浮かべて、こいつはまた俺の周りを飛び回る。
ただ返事をしただけなのに、何でそんなに喜ぶんだ?こういうのが、男女の違いや種族の違いって奴なのか?
どうも分からなくて、俺はまた机に向かい課題を進める。ペンケースを椅子変わりにして俺の課題を見つめる妖精は、まるで螺子を巻いて動く人形のようだった。
「……なあ、お前ってさ」
「マスター、ワタシこれ知ってます!かまぼこですよね!」
そう言ってこいつは、細腕で必死に消しゴムを持ち上げる。重いのだろう、ぷるぷると身体が震えて今にも落としてしまいそうだ。
人間の俺なら当然のように持てるそれも、大きさの違う妖精ならばとてつもなく巨大な存在に見えるのだろう。
白にほんの少しの黒が付着したそれを指で摘めば、突然消えた重みにこいつは驚いて俺を見上げる。
「これは消しゴム、蒲鉾じゃねえよ」
「ちがうんですか?」
目を大きく見開いて、ぽかんと口を開けて。間抜け面だ、妖精もこんな顔するんだな。
酷くどうでもいい事はわかってる。下らない発見なのはわかってる。でも、こいつの何気ない表情を見るたびに安心しているのは事実だ。
こいつはいろんな謎を秘めている。俺の知らない事の方が多いんだろう。
…だから時々、不安になる。
「なあ、お前はさ」
「はい?」
「……お前は、突然消えたりしないよな」
なんてつまらない質問だろう。なんて馬鹿な質問だろう。そう思っていても、吐き出してしまった言葉が戻る事はない。こいつは間違いなく、俺の言葉を聞いた。聞かなかった事にしろ、と言えば間違いなく言う通りにするだろう。だがしかし、俺はただ何も言わない。
今の言葉を肯定されるか否定されるか。ほんの少しだけ顔をゆがめて、こいつの言葉をただ待っている。
「………マスターは、はいって言ってほしいんですよね」
「……そう、だな」
「じゃあ、はい!ワタシはマスターから離れませんよ!」
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