||| 東雲ショウマと妹
ショウ兄は怖い人だ。妹のわたしが言うのは変かもしれないけど、とっても怖くてわからない、不気味な人。
ヴァンガードが強くて、頭が良くて、かっこいい素敵なお兄ちゃん。みんなはショウ兄をそうやって沢山褒める。ショウ兄が褒められるのは勿論わたしだって嬉しい。わたしはショウ兄が大好きだから、多分、嬉しいで正解。
お外にいるショウ兄はニコニコしてて、とっても優しい。だからわたしは、お外のショウ兄は大好き。
でもおうちにいる時のショウ兄は違う。ニコニコしているけれど沢山わたしに酷いことを言うし、わたしのデッキをすぐに駄目って否定する。叩いたりはしないけど、無理やりわたしのデッキを取り上げようともする。
ショウ兄はわたしのデッキが嫌い。わたしのヴァンガードが、とっても、嫌い。ロイヤルパラディンは綺麗でかっこ良くて、素敵なのに、ショウ兄はたくさんたくさん駄目だって言う。
「ショウ兄、どうしてロイヤルパラディンはいけないの?」
「ナマエには、ジェネシスがよく似合うよ」
「ショウ兄」
「俺と同じデッキを組んであげる。だから同じクランを使おう?」
「ショウ兄、どうして」
「そんなものを使っていては強くなれないよ」
「ショウ兄、なんでロイヤルパラディンはいけないの?」
「強くなれないからだよ」
そればっかり。わたしは強さなんか求めてないのに。
強くなくても構わない。ヴァンガードは、楽しいものだから。それを教えてくれたのはショウ兄だった筈なのに。いつからこうなってしまったんだろう。
わたしはショウ兄みたいにエリートじゃない。強くない。強くなりたいとは思うよ。もっと勝てれば、もっと楽しいだろうなあって思うよ。
でも、ショウ兄みたいに"勝ちが全て"みたいな考え方は、きっとおかしい。
いつからだろう、ショウ兄がわたしとファイトしてくれなくなったのは。
昔はもっと、昔は、むかしは。そんな悲しい記憶ばかりを思い出しては、一人で涙を流してる。こんな事考えても、ショウ兄が元に戻ってくれる筈ないのに。
「……ナマエ、どうしてお兄ちゃんの願いを断るんだい?」
「……ショウ兄が、こわいから」
ねえ、どうして、わたしの言葉に安心したような顔をするの?
ショウ兄が何を考えているのか何もわからない。怖くて仕方がない。
ショウ兄のデッキはショウ兄の。わたしのデッキはわたしの。自分の組んだデッキに愛着のない人間なんて、いる筈、ないのに。
ちっちゃい頃、ショウ兄に教わりながら必死で組んだロイヤルパラディン。あの時のショウ兄はとっても優しい笑顔だったよ。覚えてくれているのかな。忘れちゃったら悲しいなあ。
「そんなのより、もっと完璧なデッキをあげるよ」
「……いらない…」
「ナマエが強くなれば、お兄ちゃんと一緒にいる時間が増えるんだよ」
「……いまのままで、いい」
「昔みたいに、沢山笑っていられるのに」
いまと昔を、自分で、比較するなんて。
「……わたし、今のショウ兄は、きらい」
なのに、なんでそんな悲しそうな顔をするの。
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