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 ||| ロジェおじ様と打算的な娘


お父様の、ふとした瞬間に見せる優しい表情が何よりも好きでした。わたしはお父様のことを何も知らないけれど、隣にいるときに見えるその瞬間は、昔からずっと、好きだったような錯覚を感じてしまいます。
わたしとお父様が家族になったのは、つい最近のことです。親の居ないわたしを養子に貰ってくださったお父様は、身寄りのないわたしにもとても優しく接してくださりました。
わたしのような存在にはとても勿体無い程の部屋に、お洋服に、待遇に、カードに、何もかも。
わたしはただの子供で、お父様の利益になるような存在でないのは自分がよく分かっています。けれど、お父様は、わたしが恐ろしいと感じるほどわたしを沢山愛してくださる。
これで良いの?良かったの?記憶にない両親の姿に、わたしはただ首をかしげます。
お父様が何のお仕事をしていらっしゃるのか、わたしは何一つ知りません。お父様がどんな人かも、分かりません。
けれどお父様は、自宅に帰ってわたしの頭を撫でるたびに、とても優しい表情をされます。だから、もう、知らないままでいいのでは、なんて思ってしまうのです。
コモンズの貧しい生活をするよりも、いまここで、こうして幸福な生活をしていた方がずっといい。そんな、打算的な考えがないわけではありません。
空腹は嫌い。寒いのは嫌い。痛いのも悲しいのも嫌い。わたしはずるい人間でしょうか。ですが、ある意味、当然の心理でしょう。
こんな風に、わがままになって、何がいけないのですか?
わたしはお父様が大好きなのです。だから、ここにいるのです。そのついでに、他の幸福を満たしているにすぎません。
それでいい。構わない。わたしの幸福は、間違いなくここにあるのですから。

「貴方は随分と打算的な娘ですね」
「いけないことでしょうか?」
「いいえ、私の娘としては申し分ありません」
「ふふ、それならよかったです」


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