||| デニスくんに負ける
(落ちない)
そうね、貴方は、そういう人間だったわね。
微笑みながらそう告げれば、貴方は同じように微笑み返す。けれどその笑みの裏に存在する感情はまるで違う。貴方はやっぱり、何も分かっていないんだわ。
ぼろぼろの身体を必死に持ち上げ、地に這い蹲ったままわたしは彼をただ見上げる。なんて無様なんだろう。これが敗者の目線か。出来ることなら、死ぬまで拝みたくはなかった光景だ。
「キミの目にはいま、どんな世界が見えているのかな」
貴方も一緒に這いつくばれば、同じ光景を見る事が出来るんじゃないかしら。
過去のわたしなら簡単に吐く事の出来た悪態も、無様な程簡単にデュエルに負けてしまったわたしには、少しも吐き出す事ができない。
自分の身体の訴える痛みを無視しながら強引に身体を持ち上げれば、彼は再び表情を無くしわたしの身体を地面へと押し付けた。
彼のその足が、わたしの背中を強引に押し付ける。一瞬でも、足を振り上げる彼が美しいと思ったわたしは間違っていたに決まってる。甚振られているんだ、不愉快なんだ。忘れてはいけない、わたしは間違いなく勝者だったんだ、あの頃のプライドを捨ててこんな奴に美を感じるなんて許される事じゃない。
「キミって、チョット面倒くさいよね」
「何よ、それ」
「だって、勝ち組だったキミが此処まで無様に負けたのに心が折れないんだよ?面倒くさいったらありゃしない!」
「煩いわよ、外国人!大体あれは、必要なカードが来なかったから――」
「――来なかったから、ナニ?」
酷くひどく、冷たい声。背筋をなぞるように感じた嫌な気配に、わたしは生唾を飲み込んだ。
デュエルに言い訳は不要。それは、わたしも十分過ぎるほど理解している事だった。あの時はああだった、次やる時は必ず。そういった"もしも"の話は、考えるだけで戦士にとっての罪となる。
「……なんでも、ない」
真の強者は、運までもを味方につける。アカデミアの教諭の殆どは、口を揃えてそう言った。その言葉を口にしない数人の教諭も、恐らくは同様の考えを持っているのだろう。
けれど、わたしはその、統一された感覚が嫌いだった。そう思って当たり前。そう感じるのが、当然の事。
作られた当然は、この閉鎖された空間に蔓延り、新たな"当たり前"として過去を上書きする。そして、わたしのような過去の"当然"を信じる者を、異端として認識しだす。
目の前の彼は恐らく、上書きされた当然を信じる多くの人間の一部なんだろう。だから、それを信じずに言い訳を口にしたわたしを嫌い、酷く蔑む。
「ああ、最高にfantasticだよ、ナマエ!」
「…名前で呼ばないで」
「キミみたいな強者が今こうして地に落ちて、ボクの前に跪いている!なんて素晴らしいんだろう、やっとキミと目を合わせられる!」
≫
back to top