||| クリフォートに語らう
この世界をやり直すにはどうしたら良いのでしょう。神はもう存在しません。わたしのような真っ当でない存在には、随分と生き辛い世界に変わってしまいましました。
少し前までは、救いのない絶望がこの世界を埋め尽くしていたのです。神はそれを嘆き何もかもを作り直そうとされましま。わたしはそれを甘んじて受け入れるつもりだったのです。
ですが、神の創造物が抱いた神に逆らうという愚かなる反逆という意思によりこの世界を作り上げた我らの母"sophia"は消え去ってしまったのです。彼女は自らの子供の手で存在を消されてしまったのです。
ああ、なんと嘆かわしい事でしょう。母親に手を挙げる子供がありますか。神に逆らう信者がありますか。所有者に逆らう人形がありますか。
彼女にとっては何もかもが人形同然。我々という個体の意思などは初めから存在しません。それを良しとしない存在がいるのは知っていました。ですか、愚かにも、身の程知らずにも程があるでしょう。神を、殺してしまうだなんて。
「お前も、そう、思うでしょう」
物言わず隣に佇む透明な其れへと言葉を紡げば、わたしの心はいくらか落ち着きました。
此れは、母の残した数少ない遺産物。悪徳の名を孕んだそれらを、彼女が何故作ったのかはわかりません。ですが、彼女の残した存在というだけでわたしの中の其れに対する神化は始まってしまっているのです。
物言わぬ機械は起動せず、何もない空間に重苦しい沈黙を与えるだけ。わたしの声が響くのが救いでしょうか。それでも、耳が痛くなるほどに音のない世界なのには変わりありませんでした。
爪先でそれをつつけば、キン、という甲高い音がこの空間に鳴り響く。ただそれだけの事なのに、神々しさを感じるのは、矢張り其れが母による創造物だからなのでしょうか?わたしはもう、何もかもが分かりません。
時折思ってしまうのです。此れらを全て砕いてしまえば、中に、母の復活の為の何かが眠っているのではないかと。
母の残した遺産に手をあげるつもりはありません。ですが、もし、中にデータとして彼女の存在が残っていたら?彼女が自らの死を予期していたのだとしたら?
憶測で物事を考えるのは良い事ではありません。ですが、わたしは、それでもそう思ってしまうのです。酷く酷く傲慢な、母に造られた人間と呼ばれる種なのですから。
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