text | ナノ
 ||| クロノくんを嫌う


可愛いあなたの、悲しそうに伏せられた森の色を孕んだ目が酷く愛おしくて、けれど憎くて、嫌いで、どうしようもない気持ちでいっぱいになってしまう。
わたしは酷く我儘な人間。貴方の事を愛してるのに、わたしを置いて外に行ってしまう貴方が嫌いで嫌いで、仕方がない。

「ずっと一緒にいてくれるって、いったのに」
「……悪い」

ぽろぽろと零れる涙が、邪魔で邪魔で仕方がない。こんなもの零したって、何の意味もないのに。可愛いあの子を引き止められるはずが、ないのに。
どうして、どうして勝手に行っちゃうの?わたしたち、一緒にいようって言ったよね。そんな約束さえも、忘れちゃったのかな。
置いていかないで。一人になるのは怖いの。どうかおねがい、わたし、もう、一人でなんか泣きたくない。
「……うそつき」
言っちゃいけない言葉ばっかりが、わたしの心を埋め尽くす。きらい、クロノなんかきらい。だいきらい。うそつきのクロノは、わたしの好きなクロノじゃない。
「くろののうそつき」
クロノのばか。だいすき。すき。何よりも好き。ずっとずっと、一緒だったのに、なんで、こんな。
クロノは大好き。でも、わたしを置いていくクロノは大嫌い。きらい、きらい。きらい。
わたしを一人にするクロノなんか、わたしの好きなクロノじゃ。

「おまえなんか、どこにでも、いっちゃえばいいんだ」
――どこにもいかないで。おいて、いかないで。


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