||| ネフィリムと影
(どちらかというとアノマリリス)
氷の存在に囚われた、機械仕掛けのお人形。私はそれへと、求めるわけでもなく、壊してしまうわけでもなく、ゆっくりと指先を押し付けたのです。
ネフィリム、いえ、今の名はアノマリリス、でしたか。
炎を孕んだ存在を氷漬けにするなどという烏滸がましい行為、行う事が出来るのは貴方くらいなのでしょう?
意志を持つ人形へと笑みを浮かべれば、それは、私の指先は一瞬で氷へと変化してしまったのです。
指先全ての水分は凍り、ゆっくりと、わたしの身体へと浸食する。人形風情が、本当に烏滸がましいですね。何故身の程を弁える事ができないのでしょう。いえ、機械だから身の程もないのでしょうか?それにしても酷いこと。なんて、なんて冒涜的なんでしょう。氷漬けにされたその姿の、なんとまあ醜いこと!
お前は一体、私の管轄の外で何に触れたのですか?私が見ていなければ良いと思い、いつものように、その身で全てを奪おうとしたのでしょう?
ああ、本当に滑稽でなりません。これだから、"動かされているもの"は困ってしまう。
プログラムされたシステムへの反逆に、触れてはいけない存在の怒りを買い、挙げ句の果てにはこうして眠りについてしまうなんて。
「ねえ。お前だって、こんな事になるとは思ってもいなかったのでしょう?」
そもそも、望んでこのような姿になる者など居るはずがないでしょう。
自らの力量を誤り制圧に失敗してしまったかわいそうな機械。こんなのガラクタ、使えない。そう言い切り捨ててしまうのも、まあ悪くはないでしょう。
ですが私はお前を捨てたりなどしません。愛しい機械仕掛けのお前を、永遠に影に囚われ続けるお前を捨てる事などそもそもできはしないのですから。
神に等しい存在でありながらも、下等生物の姿を真似てその意図を垂らし、操り、悪趣味な世界を展開し続ける。それは私の指示ではありません、此れが、この人形がひとりでに行う純粋な悪意のない"悪事"なのです。
私の目的は何一つとして存在しません。所詮は集合体の一部、私はそう、生命体の多くが"影"と呼ぶ存在なのですから。
私は集合体の一部であり、全ての影を支配する者であり、アノマリリスに、シェキナーガに、ネフィリムへと、影を与えた絶対的な存在。
私はこの深淵でお前たち我が子を見守り、ぼんやりと暗い影に揺蕩う事だけが何よりもの目的。それ以外は全て、わたしの知らない者なのです。いえ、興味がないと、言えば良いのでしょうか?
集合体の一部である私に統率力などという絶対権力は存在せず、私の意志は他の意志と混同される。
けれどわたしは、"影からの離別"という選択を与えられた核の一部。原核で生まれた私は、その糸が繋ぐ先の存在を操る事のできるオーケストラの指揮者。影という演奏団体は、私の演奏を奏でる為の道具でしかないのです。
「まあ、よくあるお話です。奇跡は所詮、奇跡でしかないのですから」
奇跡という輝きとは、永遠に続くものではないのです。
光とは影を生み出す為の消耗品。所詮はその程度でしかありません。それ以上でもそれ以下でもない"其れ"を願われたところで、私が願う事など何もないのですから。
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