text | ナノ
 ||| 氷結界の龍と巫女


(飽きた)

指先が触れることさえも貴方様は拒絶しました。それは私の為でしょうか?それとも私を殺したくないという貴方様の欲の為でしょうか。
貴方様に触る事が出来ないままこの人生を終えるという何よりもの悲しみが、私の心を殺してゆくのです。封印された貴方様のお言葉は、もう聞く事ができないのです。氷も同然の貴方様の艶めかしいお身体に触れる事すら、もう許されないのです。
三体の龍は封印され、この世界に救いは齎されました。ですが、私に救いなど存在しないのです。私の救われる方法は、氷龍と命を共にする事だけなのですから。
世界への反逆は許される事でしょうか。いえ、例え許されないとしても私はこの世界へ逆らい龍の御許で永遠に涙を流し続けるのでしょう。この涙がいつか厚い穿ち、再び相見える日を願っているのですから。
世界に対する、些細な反逆。幼い容姿のままの私の身体は、氷龍が最も愛した姿のまま何千年と変化する事はありませんでした。
子供という、何も知らない純粋無垢な美しい存在。今となっては掛け離れてしまったけれど、私の姿は、彼らに愛し愛され続けた結果であり願いでもあるのです。この姿は望まれて作られた姿なのです。
ブリューナクのような淡い氷の色を孕んだ柔らかい髪、グングニールのような赤みの点す肌、トリシューラと同じ色をした金色の目。
お会いしたいです。再び相見えて、どうか、この世界を氷漬けにしていただきたいのです。この寂しい一人の生命を、貴方様方の手で終わらせていただきたいのてす。
ぼんやりと世界を眺め続けるのは少々面白みに欠けると常々思っておりました。何も起きない世界は消えて終えば良いのだと、願う事さえもありました。
この世界が滅びれば、私たちは共に何もかもを終える事ができる。なんて幸福なのでしょう。けれど、それは、真の終焉とは程遠い。
氷結界を守る末裔の言葉に耳を傾ける必要を感じられないまま、どれ程の時間が経過したでしょう。
お前たちは彼らの血を引いていない紛い物。それなのに、何故この結界を守ろうとするのですか?
そう、ここに居るのは私だけで十分。この結界を見守り続けるのも、私だけで構わないのです。


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