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 ||| ロジェおじ様の養子になる


(飽きた)

ジャン・ミシェル・ロジェがコモンズの孤児を養子に迎えたという話を知る人間はあまり多くない。彼は情報の漏洩を酷く嫌う。いや、上に立つ人間は皆そういうものなのだろうか。彼自身が信用に足ると認識した極僅かな人間のみが、わたしをコモンズ出身と知るのだった。
高度なタクティクスと確実な腕、そして時の女神さえも味方につけるその神に愛された強運。彼のデュエルは事務的でありながら酷く熱く、同時に氷のような冷たささえも感じる不思議なもの。
彼のデュエルを見るのはとても好きだ。だが彼は、自らが赴き裁きを下す事はあまりない。それを残念とは思うが、心の何処かで彼による被害者が少なくて安心しているのは誰にも言えない事実だった。

「君は私の指示に従いなさい。それ以上を行う必要はありません」
「分かりました」
「よろしい。では何か質問は」
「貴方の事を、お父様とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「構いません。我々は本日付で親子の間柄となりました、そう呼ぶのは当然の事でしょう」
「分かりました、お父様」
「よろしい。では、私の指示があるまでこの部屋で待ちなさい」

そう言って彼はこの部屋を出て行った。綺麗な新品の家具ばかりが置かれた、少女が好きそうな可愛らしい部屋。おそらくここが、私の部屋となるんだろう。ふとため息を吐けば、この部屋の綺麗な空気が汚されてしまったような錯覚を感じた。
彼に与えられた、綺麗な服のリボンを緩めてそっとベッドに腰掛ける。昔来ていた服とは違って、とても堅苦しくあまり心地よいものではない。何度も着れば慣れるとは思うが、慣れるまでは酷く長く感じるものだ。

孤児院に残してきた他の子供は元気だろうか。とても仲の良かった二人の子供は、今、何をしているんだろう。一人で上に上がってしまった私を憎んでいるのだろうか。いや、憎まれているのならそれはそれで構わないか。
いっその事私を倒しにここまで来ればいい。そうして私を倒して、彼らが、みんなが此処で幸せに暮らせるのなら私はそれで満足だ。きっと、彼らを捨てて此処まで来た罪も帳消しにされるだろう。
けど、彼らはきっとそうしない。長く隣で笑ってきた私は、心優しい彼らの事をよく知っていた。
憎まれる事は無いと知りながら、憎まれる事を心の何処かで願っている。私は、何を望んで此処へ来たんだろう。
隙間風も無い、天井に穴も無い、此処はとても暖かい部屋だ。でも、孤児院でみんなで過ごした日々の方が、きっと、ずっと暖かかったんだと今は思う。

「……ユーゴ、リン…」

会いたいとは言わない。帰りたいとも思わない。だがしかし、気を抜けば二人の笑顔を思い出して罪悪感に苛まれる。
結局私は、デュエルの腕でない方法で此処まで成り上がってしまった。一人で此処まで、望まぬまま引き上げられて。
私に父は必要無い。私の家族は、孤児院のみんなだけだ。けれど此処では、彼が絶対的。逆らう事は許されない。それならば、少しでも彼の機嫌をとる事を優先した方が良いだろう。


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