||| グウィードくんと幸福
「ナマエさん。俺は思うんです。幸福とはなんなのかと、真剣に」
「幸福、ですか」
驚いたようにぱちりと瞬きをする目の前の彼女は、俺の言葉をただ復唱する。そう、俺の疑問は幸福だ。幸福の定義とは人によって様々だろう、だから、彼女に聞くのは少し間違っている。そんな事は分かっていた、だがしかし、俺は自分にとっての幸福と、彼女にとっての幸福の両方が知りたくて仕方がない。
恋心とはエゴだ、我儘だ、分かっている。この質問も、どうしようもないほどに俺の我儘なのだろう。
だがしかし、その我儘をどうにかして返したい。俺の我儘の同等、いや、それ以上を彼女に返して俺たちは幸福になりたい。
そう願うからこそ、俺は、こんなくだらない質問を彼女へと投げ掛けたのだった。
「こうふく…」
「なんでも構わないんです。ナマエさんにとっての幸福が、知りたくて」
「こうふく……?」
む、と首をかしげる彼女にほんの少し眉を下げ、「難しかったですか」と問いかける。
彼女はいつでも幸せそうに笑うのが特徴の、とても優しい少女だ。元隊長の弟子であり、現在は師匠の弟子――つまりは俺の姉弟子となる彼女は、どんなに辛い特訓だろうと一度も弱音を吐いた事がない。
いつだって彼女は笑って、「大丈夫です」と口にする。そんな彼女に俺は憧れ、羨ましいと純粋に思い、気づけば、力の意味ではない強さを持った彼女に恋心を抱いてしまったのだ。
「戦争のない世だとか、そういう物でも構いませんが…」
「それは…わたしの幸福じゃなくて、世界の幸福なんじゃ……」
「…それもそうです、ね」
「…わたしにとっての、幸福……」
口を噤み、彼女はじっくりと考える。唐突に聞いた俺も悪いが、真剣に答える彼女も彼女で心配になる。悪い人に騙されたりはしないだろうか、いや、俺という恋い焦がれた悪人に現在進行形で騙されている最中だ。酷く申し訳ない。不純な動機だけで作られた俺をどうか許してほしい。
「……あ、」
「思いつきましたか?」
「こうしてグウィードさんとお話しするのが、わたしの幸福ですね」
神よ、どうか不純な俺に今すぐ裁きを与えてください。
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