text | ナノ
 ||| ユーゴくんと泣き虫


(飽きた)

もう、辛い思いをしたくないと叫んだのは何度目だろう。ユーゴはいつだってそんなわたしに、悲しそうな目を向けながら大きな声で怒鳴った。
リンがそれを止めることはない。止めたって無駄だって分かっているんだろう。わたしだって止めて欲しくない。彼女がこれ以上精神を擦り減らすのは見ていられないからだ。わたしたちの関係は酷く歪でぼろぼろの状態。けど、わたしたちは、皆がそれを理解していながらもだれ一人として修復を望む事はなかった。多分、それ正解なんだと思う。
わたしたちには親がいない。血の繋がった家族だって、存在しない。だからわたしたちはみんなが家族。たとえ血の繋がりがなかったとしても、それは家族と呼べる程の関係。だからわたしは、多分二人のことが、家族として好きだった。

「泣いてばっかで、悔しくねーのかよ!」
「でも、もう、もう……わたしは……!」
「そうやってお前ばっか逃げてんじゃねえよ、そんな事して何になるんだよ!!」
「なんにも、ならないよ…!」

ああ、完全な逆上だ。最低だ。でも、分かっていてもどうする事もできないまま。
これ以上言っちゃだめだ。そんな事言ったら、全部否定する事になる。全部全部分かってる、どうにもならないのは分かってる。
「……でも、」
言っちゃだめなのに。分かってるのに。
ぼろぼろと溢れる涙が、邪魔で仕方がない。嗚咽が苦しい。上手に息ができない。自分の体なのに、まるで、自分じゃないような錯覚まで感じるほど。

「……逃げても逃げなくても、なんにも、かわんない」

ユーゴが愚図なわたしに苛立つのも、リンがわたしを迷惑そうな目でみるのも、変わんない。わたしはずっとそういう人だ。愚図で、何もできなくて、弱虫で、二人に迷惑ばっかりかけて。
きっと、家族なんて括りがあるから、二人はわたしを引っ張ってるんだ。そうでなかったら、二人はとっくに、わたしを捨ててもっと遠くにいる筈だから。
それに安心しているのはわたし。それを嘆いているのもわたし。結局わたしは、どうにもならない自分の気持ちに足を取られて動けない、酷く弱い――最低な人間だ。

「――お前は、いつもそうやって!!」
「じゃあ、もういっそ、わたしの事捨ててよ……!」
「な、…」
「いらないんでしょ、邪魔なんでしょ……わたしみたいな、何も出来ない子は必要ないでしょ…!全部全部、わかってるのに!」
「分かってねーだろ!!」
「分かってるよ!!」


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