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 ||| ユーリ様と不安症


(飽きた)

また、だ。
わたしはまた、この光景を目にしている。これで何度目か、数えようとすれば喉の奥から熱い何かが溢れそうで、わたしは、直ぐに数えるのをやめた。
灰色の雲に覆われた、消炎の香り漂う廃坑した街。沢山の光と笑顔のあふれる街を、わたしはぐちゃぐちゃに壊してしまったのだ。
今更抵抗なんて感じない、こうして壊すのはわたしの仕事なのだから。けれどこの行いに、後悔しないといえば嘘になる。
親から切り離された幼い子供をカードにする瞬間、子供を探す親をカードにする瞬間。そんな瞬きしている間に終わってしまうような些細な出来事が、わたしは嫌いで仕方がない。いや、嫌いというよりは、恐ろしいというべきか。
こんな事をして何になる、次元を一つにしたところで、一体何の得がある。わたしはいつだって、下を向きながらそれを考える。顔を上げて考えられるほど、わたしは勇敢な人間ではないから。
プロフェッサーの命令だから、それが世界の為だから。それを理由として、咀嚼して飲み込もうとしてもわたしの胃はその言葉を受け入れない。
理由を考えずに戦うのは好きだ、けれど彼らを倒した後、ふと感じるあの瞬間が恐ろしくて仕方がない。
――わたしはどうして、こんなことをしているんだろう。
その答えに返る返事はただ一つ、返してくれる人もただ一人。わたしを肯定し受け入れてくれる彼はわたしの輪郭を撫でて言うんだ、わたしの好きなあの言葉を。
ただそれだけを繰り返す彼に恐怖を抱かないといえば嘘になる。けれどわたしは他に縋る先を何も知らない、だからこそ、わたしは安心を求め繰り返し彼の元を訪れるんだ。
今だって、そう。わたしの立つ扉の向こうには、彼が足を組み待っている筈。わたしは肯定されるため此処へ来た、わたしの行いが正しいのだと認識するため此処にいる。

「……失礼、します」
「ああ、遅かったね」
「……少し、夢見が悪くて」

吐き出した言葉に嘘はない。けれど、それが全て事実かと言えばまた別で。
わたしの見た光景は全て現実だ、あの日の思い出が脳裏に浮かび上がるだけ。その度にわたしはこうして、彼の元を訪れる。その声で、言葉で、指先で、わたしの全てを肯定してもらうために。
わたし達は特別な関係ではない。彼はわたしを利用し、わたしは彼を利用する。利害が一致しただけの赤の他人、色恋沙汰とは無縁のものだ。

「肯定してください。それだけを聞いたら、帰ります」
「君はつれないね、こんな夜中に男女が部屋で二人きりなのに」
「不純異性行為は禁止されています」
「不純じゃあないよ」
「……動機が不純」

眉を顰めてそう吐き出せば、「それもそうだね」と悪びれもせず彼はクスクスと笑いだした。何が面白いのかわたしには何一つ理解ができない。わたしはどうしてこんな男とこんな話をしているのだろう、どうしてこんな男に頼っているのだろう。時々過去の自分が分からなくなる。


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