||| ユーリ様と人魚
(飽きた)
(真面目に読んだら負け)
美しい人魚を捕まえた。
穢らわしいエクシーズ次元で唯一光を放った、美しすぎるその存在。それはまるで、お伽話の姫のようだった。淡い色の鱗に、深海を思わせる深い青緑の長い髪。海とは縁遠い麦の波を思わせる金の瞳は心なしか伏せられ、薄桃色をした唇は何も言葉を紡がない。
人の足を持って僕の前に立ったその人魚は、ただ何も言わず、立ち塞がるように両手を広げ憂う表情で僕を見つめる。その目が語る言葉を正確に読み取れる程、僕はきっと冷静ではなかったのだろう。その美しい存在を手中に収め、深海の色の輝く髪をそっと手に取れば、彼女は薄桃色の唇をぐっと噛み締め耐えるように目を瞑る。
「その目を、見せて」
囁くようにゆっくりと言葉を与えれば、地上に慣れない人魚は覚束ない動きでその薄い瞼を開かせる。僕の言うことを聞く、従順な美しい人魚。なんて理想的なんだろう。
地上に不慣れなその白すぎる二本の足はかくかくと震え、僕に捕まらなければ碌に立つことも出来ないだろう。
ああ、きっと、それ程迄僕に会いたかったんだ。そう思えば、自然と口角は釣り上がる。
残党なんてもうどうでもいい、彼女さえ居れば今日の収穫は十分すぎる。これ程美しい人魚ならば、誰が見たとしてもその存在を認めざるを得ないだろう。
僕はこの日、本物の人魚を見た。だから僕は、彼女を飼うことにしたんだ。
人の足を持った、人の形の人魚を。
僕たちのお伽話は此処から始まり、此処で終わる。
哀れな人魚は、姫になることを望みはしなかったのだろう。僕だって、それは十分にわかっている。だからこそ、彼女は姫に相応しかった。
長すぎる髪は僕の手で短く切られ、王子は所有の証として人魚へとキスを送る。
水中を飛び出し人の世界で歩いた人魚は、たった一人の王子の手により再び海へと戻されてしまう。
例え彼女がもう泳げぬ身体なのだとしても、僕はその身体を水に沈めてしまうだろう。
水中で息の出来ない身体と知った、涙を流しても真珠にはならないと知った。それでも僕は彼女を手放すことはなかった。
青い空を懐かしみ声をあげようと、その美しい羽根を広げようと、僕は彼女を、何度でも水面へ突き落とす。
彼女は僕だけの人魚でなければならない、その為ならば彼女の羽根も切り裂いてしまおう。翼の在る人魚なんて存在するはずがないのだから。
そもそも初めから彼女の意思なんて必要ないんだ。ただ僕は美しい彼女が見られるならそれで構わない。その鱗が無い足も、僕の為に失ったのなら僕はただ満足だ。
愛しく平等なか弱い人魚姫、君はいつか僕の手によってその命を泡へと還すだろう。
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