text | ナノ
 ||| 鶯色と幸福中毒


望まれて鳥籠の中に閉じ込められているの、それ以上を求めるわけにはいかないわ。
存在していいと言われているの、それ以上はもう聞かないふりでいいじゃない。
わたしは此処で呼吸をしている、確かに酸素を消費しているの。それだけでこの世界にどれだけ影響を及ぼしているのかしら。ううん、わたしのせいで生まれる影響なんてもしかしたらないのかも。
わたしはただ恐ろしいの。こんな果てしない、空っぽの鳥籠の中でひとりきり。眠りについて、目を覚まして、愛でられて、そうしてまた眠る。何もしない空虚なサイクルは愛おしい、貴方に愛される時間は大好き。けど違うの、わたしはただ、幸福になりたいだけ。
「ねえ、だから」
「それ以上は、いけないよ」
くつりと笑う嫌な声。ううん、いやなんていっちゃ、だめ。鳥籠の主はそうやってくつくつ笑う。ねえ、この障子の向こう側は、きっと、きらきらとお天道様が眩しいのでしょう?
掠れた声で言葉を吐き出せば、どろりとした熱すぎる口付けを与えられる。違うの、わたしが欲しいのは、貴方の熱じゃ。
何もかもが溶かされてゆく錯覚。あつい、熱すぎる、太陽に近付き過ぎた鳥は、その愚かさ故に燃されて灰になってしまうのよ。ねえ、貴方はわたしの灰を撒いてくれるのかしら。
鶯の色の髪がふわりとゆれる。心地よい茶の香り、ああ、すきよ、貴方の淹れたお茶がまた飲みたい。
「愛しているよ」
そんな事を言って、人間にでもなったつもりなのかしら?わたしが求める言葉は、そうじゃないのに。どうしてかしら。貴方に囁かれても、少しも嬉しくないんだわ。
この鳥籠の中は、辛く苦しく悲しいの。そんな言葉で幸せになれるほど、この部屋は、暖かくない。
人間の真似事をして、一体何が楽しいの?辛くはないの?虚しくは?
ああ、そんな疑問を抱いちゃいけない。わたしはただ、彼に従順でいれば良いだけの事なのに。そうよ、そうすれば、きっと死ぬまでの幸福を約束される。
いいの、何もかも投げ出して仕舞えばきっと幸福になるんだから。鶯色の髪が酷く綺麗ね、ああ、何処か遠くから鉄錆の香りがするわ。赤色は嫌いなの、だからおねがい、わたしもう何も見たくない。
目を閉じたら幸福になれるのかしら、貴方の愛を受け入れれば、わたしはもう何も傷付かずにいられるかしら?
鳥籠の鳥は貴方なのに、いつからかしら。こうなってしまったのは。
全て貴方に任せれば良いの?それで本当に幸せになれる?わたしは貴方達を見捨てようとした、最低な主なのに、それでも良いの?
わたしはただ、幸せになりたいだけなの。
わかって欲しいとは言わないわ。わたし、ここで幸せになる。緑色に抱かれて永遠になるの。この命が尽きるまで、たった一本の刀と共に幸福に過ごしてみせる。
だってそれが、貴方の望みなんでしょう?貴方の望みを叶えれば、幸福になれるのでしょう?
「あいしているわ」
だから早く、どうかわたしを幸せに。


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