||| 加州清光の名前を呼ばない
おれのなまえをよんでと言われた。
けれどわたしは、哀れな君の名前を呼べない。
君の名前なんか知らないから。君単体の名前なんて存在しない。
"加州清光"、その名前は君のための名前じゃない。だって君という存在はわたしの手によって幾らでも作ることができるから。
可哀想な君はいつだってわたしに縋る。そうして、わたしを呼んで、おれのなまえをよんでと縋るんだ。
きみのなまえをよんで、わたしに、何か幸福は訪れるのかな。いい事なんてあるのかな。
何もないよね、それなら、何もしないほうが幸せだよね。
そうやって君の我儘に答えるのも手間なんだよ、一々君という個体に構ってあげる暇なんてないんだよ。
わたしはね、君と違ってね、凄く凄く忙しいの。
偉い人とお話しして、偉い人に食らわれて、沢山沢山、苦しんでるの。
ねえ、知ってる?わたし、こんなに辛い思いしてるんだよ。それなのに、どうして君はそんなふうに我儘を言うの?
「なまえを、よんで」
我儘な子は嫌いなの。
だって面倒臭いじゃない。いちいち気に掛けたら疲れちゃう。
嫌な思い出ばっかり作らないでちょうだい。
そうやってわがままを言う"加州清光"、何人目だと思ってる?
大好きって、好きって、何回も何回も何回も言うよね。けどそれ、本当に君の意思なの?
わたしに縋っているだけじゃないの?
捨てられたくない、愛されたい。そう思うなら、愛してくれないわたしなんか捨てればいいじゃない。
わたしよりもっと、貴方を愛してくれる人は沢山いるんだよ?
だってほら、戦うだけの"加州清光"なら他にごまんと居るもの。
結局ね、道具が我儘言っても意味なんかないんだよ。どうにもならないんだよ。わたしの中に妙な記憶が残るだけ。
それってすごく、不快なの。わかる?
わたしを、縋る先の一部として見ているだけなら、早く何処かに行ったほうが、ずっとずっと"君"の為だよね。
"君"の幸福はわたしが決める事じゃない。
"君"が選択しなきゃいけないの。わたしは何もできないよ。何もしないよ。
「なまえを」
「煩い」
「なまえ、を」
「うるさいのよ」
「なまえ、だけ、だから」
「邪魔なの」
加州清光はきみの名前じゃない。
わたしが求めている加州はおまえじゃない。
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