text | ナノ
 ||| アイチくんと放課後


(落ちない)


もしもの話しよっか。もしも君が私の事を好きだったらっていう、面白い内容。とっても素敵でしょ?
もしもじゃない?いいの、そういう話は今してないから。
それで、もしも君が私の事を好きだったらね。一緒にカードショップで、放課後デートするんだ!そして、周りのみんなに見せつけるの。この子は私の恋人なんだよーって!
それでそれで、そしたら一緒にカードファイトするでしょ?あ、勝ったら何でも一つ我儘を言ってもいいっていうのはどうかな。とっても素敵!
それでそれで、その後カードショップを出て、一緒にショッピングモールとかどうかな。アクセサリーとか見て、ちょっとしたご飯食べて、ゲームセンターで遊んで、沢山青春を謳歌するの!
…もう、もしもじゃないとか、好きだとか、今私そういう話してるんじゃないの!アイチくんともしも付き合えたらの妄想してるんだってば!
こういうのは現実じゃ叶わないから言ってるの!

「そういうのって、ほ、本人の目の前で言うものなのかな!」
「言うものなの!そうやって恥ずかしがるアイチくんを見るのが楽しいから!」
「え、ええ!?」

驚いたような声を出すアイチくんに、私は思わずお腹を抱えて大笑い。恥ずかしそうなアイチくんはとっても可愛い。女の子の私より可愛いなんて、ズルすぎるよ。
茜色に染まった放課後の教室、ここに居るのは私達二人だけ。
カードファイト部の活動は、今日はお休み。私はアイチくん待ち。アイチくんは、日直のお仕事中。
「アイチくんは本当、真面目ちゃんなんだから」
「ナマエさんが不真面目なだけだと思うけどなあ…」
苦笑いしながらも、日誌を書く手を止めたりはしないあたり本当に真面目な子だ。もうちょっと不真面目でも、誰も怒ったりしないのに。
「あとどれくらい?」
「三行で終わるよ」
顔を上げずにそう告げる。青色の綺麗な髪がゆらゆら揺れて、何故だかとっても美味しそうに見える。
頬杖をついて、学級日誌のつまらないページに文字が埋まって行く様子を観察する。綺麗な文字、内容、これを読む先生はきっと気分良く読めるんだろうなあ。
私の文字とは大違い。そう思って、机に掛けられた鞄をそっと横目で眺めた。
男の子なのに、男の子のくせに。そういうと、可愛いあの子が傷付くのは分かってる。だから私は何も言わない。高校からの浅い付き合いだけど、それくらいは分かってるつもりだから。

「……ナマエさん?」
「うん」
「聞いてる?」
「うん」
「ナマエさんのこと、好きです」
「うん」

知ってる。
けど取り敢えず聞き流すんだ。私は性格が悪いから。
放課後の教室で二人きり、告白には絶好のチャンスだと自分でも思う。私だって、元々そのつもりでアイチくんの日直仕事に付き合ったから。
けどそうじゃないんだ。なんていうのかな、シチュエーション?はバッチリだし、雰囲気…も問題ない。お互いのモチベーション…最高潮じゃん!
じゃあ何がいけないんだろう。
……気分?
「ナマエ、さん?」
私の気分一つで一世一代の告白を無下にしたら申し訳ないよねえ。じゃあ何だろう、わたし何が不満なのかな。

「ねえアイチくん」
「は、はい」
「私さ、アイチくんの事好きなんだけど」
「う、うん」
「いざ付き合うとなると気分が乗らないんだよね」
「う、うん…」
「なんでだと思う?」
「そ…それは本人に聞く事じゃないと思う…けど……?」


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