text | ナノ
 ||| アイチくんと変人


甘いものは好きだけど甘くない物も嫌いってわけじゃあなくて。可愛いものが好きだけど可愛くない物も嫌いじゃない。
好きっていう感覚は良いものだから、どんどん定めればいい。けど嫌いっていう感覚は、決めちゃったらまた一つ視界が悪くなるでしょ。
固定観念って、なかなか覆す事はできないの。だからどうしても、色眼鏡で見ちゃう。
そしたらつまらないじゃん。その向こうに好きになるものがあったとしたら、其れを知らないまま終わっちゃうの。
そんなの嫌でしょ?知られないまま、嫌われるなんて損じゃない。だから無知って罪なの。嫌いって、言っちゃいけない言葉なの。

「けどわたし、君は嫌いよ」
「また駄目でしたか…」

反省する様子も見せず苦笑いを浮かべるあの子に、少しだけ舌打ちをする。酷いなあ、そろそろ告白回数三桁超えちゃうよ?
いい加減諦めればいいのに。
はあ、とため息をついてあの子を見つめる。
さらさらの青い髪、ぱっちりおめめ、白い肌に、ちょっとだけ染まった頬に……ああ、普通の女の子なら、こんな子に告白されたら喜んで受けるんだろうなあ。
性格も真面目ないい子だし、成績だって優秀だし、本当に彼は非の打ち所がないと思う。けど駄目なの、わたしは、彼と恋人にはなれない。
「……ナマエさん」
ああ、嫌だ嫌だ。そうやって名前呼ばれるの、大嫌い。

「だからさ、もう諦めてって言ってるじゃん」
「無理です、無理なんです」
「そうやって我儘言って、わたしに迷惑かけないでよ」
「ナマエさんの迷惑になっていることは、十分分かっています」
「じゃあ、なんでよ」
「ナマエさんが、好きだから」
「――嘘つき」

パァン、と、甲高い音が周囲に響き渡る。
放課後の教室なんて、みんな部活か帰宅かのどちらか二択。興味本位で覗きに来る者など、恐らく居ないだろう。
じわじわと痛みを感じるわたしの手のひらと、ゆっくりと赤色に染まってゆく彼の頬。
呆然とするその青色が、酷く滑稽で笑えて。
好きなんて言葉の大安売り。嫌だなあ、そういう、わたしの求める言葉を言えばわたしを落とせると思っちゃう、単純な感じ。


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