text | ナノ
 ||| クロノくんと漢字


(意味が分かると系統)


死っていう漢字の成り立ちは、人間が肉と骨に分解される様子から出来たらしい。俺の姉ちゃんは、そういった妙な事を調べるのが好きだった。だから俺も、自然にそういった知識が身に付いてった。
興味があった訳じゃない。けど、どうでもいいと言えば嘘になる。
俺が見てたのは、そうやって好きな物に一直線になれる幸せそうな姉ちゃんだけで。漢字の成り立ちとかそういうのは全部、俺と姉ちゃんの間を取り持つ、コミュニケーションツール程度にしか思ってなかったんだ。
別にそれでも良かった。姉ちゃんは、俺がそう思ってる事も全部分かって、俺に言葉を返してたんだ。今改めて考えると、つくづくそう思う。
俺が未熟だから、我儘だから、優しい姉ちゃんは俺の為に沢山の事を考える。
俺の為に姉ちゃんが悩んでくれてる。昔の俺は、ただそれだけで幸せだったんだ。
じゃあ今はどうかって聞かれると、答えることは出来ないし、答えを言う相手も何処にも居ないけれど。

人間が分解されるって、俺、さっき言ったよな。
じゃあさ、片方が見つからない状態の人の事を、死んだなんて言ってもいいのかよ。
誰が分解されたって言ったんだよ。誰がそれを見たんだよ。人が肉と骨に分かれる様子なんか、誰も見てねえんだよ。
大人はそうやって、子供に嘘ばかり吐くんだ。誰だよ、姉ちゃんが死んだなんて言い出した奴。警察?姉ちゃんの友達?それとも、名も知らねえ赤の他人か?
そうやって、自分の関係のない人間貶めて楽しいのかよ。他人事決め込んで、いざ自分の番となったら周囲に助けを求めて。
他人なんか興味ねえ。けど、姉ちゃんを貶める奴は許さねえ。これもまた我儘なのか?それを教えてくれる姉ちゃんは、何処にも居ない。
俺、こんなに待ってるのに。ずっとずっと、姉ちゃんが帰ってくるの待ってるんだ。おかえりって、一言だけ言いたいんだ。
帰ったらまた、色んな話が聞きかせてくれるんだろ。ああ、今度はあれが聞きたいな、好きって言葉の成り立ち。似合わないって笑っても、姉ちゃんはきっと教えてくれる。
「クロノから聞きたがるなんて、珍しいね」
そうやって綺麗な笑顔浮かべて、笑って、辞書取り出して、二人で一緒に、文字探して、それで――
――それで、俺、どうするんだろう。

言葉調べたって、何の意味もなくて。俺の目的は、ただ姉ちゃんの隣に座ることだけで。
それで終わり?姉ちゃんの本を覗き込んで、笑って、目的の文字が見つかったら姉ちゃんが読み上げて、本を閉じて、「またね」あああ違う、違う、俺はそんな希薄な関係を求めた訳じゃなくって。
辞書なんかより、俺の方がずっと面白いだろ。なあ、姉ちゃん、俺のこと見てくれよ。俺頑張ったんだ、姉ちゃんが困らないよう沢山努力だってした。勉強もした。だから頼むよ、俺のこと見てよ。
「時間ってね、有限なの」
そうだよ、だから少しでも俺の事見てくれよ。なあ、前にもこんなやりとりしたよな。姉ちゃんはいつもいつも悲しい顔ばっかする。折角俺と一緒にいるんだから、少しくらい幸せそうな顔してくれたって、いいだろ。
俺だって、姉ちゃんの笑った顔見たいのに。なんで見せてくれないんだよ。俺は、俺は。
「私だって、ずっと此処に居られる訳じゃない」
意味わかんねえ。姉ちゃんは俺の事嫌いなのかよ。そうやっていつもいつも、意味不明な事ばっか言うんだ。つまんねえ大人と一緒じゃないか。
嘘吐きな姉ちゃんなんか、大嫌いだ。
「クロノ」
もう何も、聞きたくない。




俺は嘘を吐いた。俺自身に嘘を吐いた。そしてこの手紙を読んでるお前らにも嘘を吐いた。
手紙なんてキャラじゃねえとか言われるけど、仕方ねえだろ。これが一番、姉ちゃんに近かったんだ。
嘘を吐く奴は全員嫌いだ。だから俺は俺が嫌いだ。
この手紙を書き終えた後、俺は姉ちゃんの所に行こうと思う。姉ちゃんの隣で、ずっとずっと、一緒に眠るんだ。
多分この手紙を見つけたお前は、俺たちが何処にいるのか、もう既にわかってるだろう。
そして、すぐ俺がどんな嘘を吐いたのかも、分かると思う。
姉ちゃんは死んだよ。
けど俺は、まだ死んでない。

なあ、この意味、アンタは分かってくれるか。


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