text | ナノ
 ||| ルキウスくんに愛される


「生きていて楽しいですか」
その問いに答える必要はないと思うの。

そう言い切れば彼は意気消沈しように黙り込む。ほら、またつまらなくなった。
駄目なの、そうやって人に期待ばかりするから。答えが返ってくる前提で話を進めていない?それってどうかと思うのよ、そもそも人として…いや、其処までは私が思うことじゃないのかな。
答え、欲しいの?
「欲しいです」
なら地面に這いつくばって土下座して頼み込みなさいよ。それくらいしてくれないと、面白味ないじゃない。
薄く笑みを浮かべて彼の頬を引っ叩けば、呆然とするレッドスピネルの色と目があった。
イージアンブルーの髪に指を絡ませれば、彼は少しだけ身を固くする。いい加減学んだようだ。けど私は気紛れだから、今回は何もしない。
「してほしかった?」
「少しだけ、ですが」
「期待した?」
「ええ、多少は」
じゃあ何もしないね。
表情を変えずそう告げれば、彼は絶望したような顔をする。ああ、その顔好きだなあ。
「可哀想な子」
目も合わせずにそう告げる。今の私の興味は、そのイージアンブルーの髪のみだ。
ぷつ、と一本髪を抜けば、彼は一瞬だけ痛みに顔を強張らせる。可哀想な子、そういう歪んだ姿大好きよ。
薄ら笑いを浮かべるのを止め、私は彼をじいと見つめた。どれ程痛みを受けても、彼は一滴の涙も落とさない。痛みどころか、強姦(立場としては逆だけれど)されても彼は一度として涙を流さなかったのだ。
「――馬鹿な子」
そう呟きただ彼を見つめれば、レッドスピネルの瞳が私をそっと見つめる。必然的に、私たちは目が合う形となった。
「僕は可哀想なのですか、それとも馬鹿なのですか」
「どっちも」
「僕は、馬鹿で可哀想」
「自分で言うのね」
「マイヴァンガード、貴方に付けられた名称です。僕はその全てを愛おしく感じます」
「気持ち悪い」
腹を蹴りつければ、彼は蹲る。所詮はヒューマン、クレイに生まれようと地球に生まれようとその性能に大差はない。
愛だとか好きだとか、ただ気持ち悪いだけじゃないか。私は我儘だとよく言われる、だが一度も"愛してくれ"などという我儘は言ったことがない。言う必要もない。
愛されているという事実は、非常に曖昧だ。言葉だかで語る愛など山のように。有象無象に振りまかれる愛だろうと、個々の人間に振りまかれる愛だろうと、それは同一。
愛など気持ちが悪いだけだ。その矛先を向けられても、不快な感情が積もるのみ。
「愛とか生きてる意味とか、知ってどうするの」
純粋な問いかけに、純粋な言葉を返される。どんな回答よりも真っ直ぐで、単純で、簡単な――。
「貴方の事を、知りたいと思うから」
その為の、探索者です。
続けられたその言葉に、眩暈がした。


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