||| ルキウスくんが嫉妬する
僕は貴方を愛しているのでしょうか。
幼い音を立てて眠る貴方に触れても、僕は、最早何も感じなくなった。
愛とは長く続くものなのでしょう?貴方を愛しいと思うものなのでしょう?
貴方の事を愛せなくなった僕は異端なのでしょうか。僕の抱く感情は、愛だったのでしょうか。
その柔らかい頬が、上下する胸が、幸せそうな笑みを浮かべる顔が、何もかもが――そう、例えるならば可愛らしいパンケーキを崩して食べるような――破壊欲に埋め尽くされ、貴方の幸福を"見たくない"と思ってしまう。
僕は自らを知らない探索者、自らを知るその為に僕は騎士の一人となり、こうして、聖域の王宮にて先導者である貴方をお守りしている。
貴方自身の選ばれた騎士によって、貴方は守られていらっしゃる。
その白い首を絞めれば、貴方の息は簡単に止まってしまうのでしょう。その薄桃色の頬を僕の槍で貫けば、貴方は痛いと泣き叫ぶでしょう。
その胸を、腹を、足を、脳を、貴方という存在そのものへ刃を突き立てれば、逆に殺されてしまうのは僕でしょう。
僕たち騎士を導く先導者。その存在は、惑星クレイに数える程しか存在しない。
軍として必要とされているのか、人として必要とされているのか。その存在が多くの騎士の士気を上げているのは間違いない。だが、彼女が実際何か行ったわけでもない。
――僕は、もしかしたら、多くの人に求められる彼女が、羨ましいのかもしれない。
月の光だけが差し込む夜の聖域。青の蚊帳が掛けられた世界で、白のシーツは薄く染め上げられる。
ベッドで眠る彼女と、その側で、ただ手を握り続ける僕。恐らくは、このまま朝まで目覚めないのだろう。僕は経験上、それをよく知っている。
けれど、握られたこの手が解ける事はない。解く気など、少しもない。
僕は貴方に嫉妬している。身の程も弁えない僕は、貴方をただ羨んでいる。
そのまるい目が守護竜様に愛されていると分かっていても、その微笑みが騎士王に愛されていると知りながらも、その存在が皆を幸福にすると理解しても、僕程度が本来触れる事の叶う立場ではないと知っていようと、僕は貴方がどうしても羨ましい!
僕が今貴方の隣に居ること自体、山のような奇跡が積み重なった結果だというのに。それでも僕は、貴方が――。
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