||| ノボルくんに謝る
手を伸ばせば可愛い君はそこに居る。けどわたしは手を伸ばせない。
少しだけ戸惑って腕を下ろすわたしに、可愛いあの子は眉を下げた。
「なんだよ、折角帰ってきてやったのに」
「ごめんね、ごめんね」
「謝るなら」
「駄目なの、ごめんなさい」
「なんで」
「わたしの、せいなの」
大粒の涙がぽたぽたと顔を伝う。足元に落ちたそれは、アスファルトに大きなシミを作った。
「せっかく会えたのに」
ごめんね、ただ謝罪を続ける私にあの子の苛立ちは少しづつ高まってゆく。「謝るなって」その言葉に込められているのは、確かな悲哀。
あの子が居なくなる前は、こんなこと無かったんだ。わたしが笑って、あの子が馬鹿にして、そんな幸せな図がすぐそばにあったんだ。
きゅ、と手を握れば互いの体温が伝わってゆく。あの子の暖かい、優しい体温にまた一つ涙がこぼれた。
「わたし、のぼるくんに会う資格なんてない」
「んなもん、オレが決める事だろ」
「違う、違うの」
「なにが」
「わたし、わたしが」
「お前が」
「こんな所に、呼んだから」
上を見れば途方もなく青い空、下を見れば長く続くアスファルト。周りを見れば、コンクリートジャングル。
超東驚は、あの子が居なくなる前となんにも変わっていない。筈なんだ。
結局変わったのはわたし、変化と成長は違う。だから、あの子は成長した。けどわたしは何も成長していない。
場の環境に流されて、抵抗も出来ない、ただのばか。
視界の端に見える大きな車に身体を震わせながら、わたしはただ涙を流す。けれど何に対してなんだろう。罪悪感か、悲しみか、それとも逃げか。
「わたしが、あなたを呼んだの」
「会うきっかけができてオレは良かったけどな」
「来ないで、ほしかった」
「……」
「あなたが来たら、わたし」
「会いたくなかったのかよ」
「ちがう、の」
ごめんなさい。
ただそれだけを呟き続けるわたしに、あの子はまた眉を下げた。
すぐに人のことを心配するのは、あの子のいい癖。そういうところが、わたしは大好き。
けど駄目なの、わたし、心配される資格なんて持ってない。
「わたし、ノボルくんの敵になっちゃった」
「何言ってんだよ」
「ごめんね」
「謝るなって」
「ごめんね」
「だから」
「臥炎カップ、がんばって、ね」
わたし、すぐそばで、ちゃんと見てるから。
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